ページ

2014/10/27

PMS: 発生メカニズムと根本原因

PMS-月経前症候群-とは?」で見たように、月経周期に関連した問題の研究は、過敏性腸症候群 (IBS)PMSPMDD、月経随伴性てんかんの4分野に分かれている。ここでは、それぞれの発生メカニズムや根本原因に関する研究を調べ、それらがどのように関連しているかを見ていく。

月経随伴性てんかんの発生メカニズム

癲癇は大脳皮質の神経細胞の一群が一斉に同期して過剰な興奮状態になることによって発生する。 Three patterns of catamenial epilepsy (A G Herzog, P Klein, B J Ransil, 1997) によると、 「エストラジオールはガンマアミノ酪酸系 (GABA) を抑制し、 グルタミン酸作動系の神経伝達活動を増強する。それによって神経系の代謝と伝達活動が活発になる。癲癇の発端となる過剰な電気活動(興奮)を促進し、動物実験においても、臨床においても癲癇発作を促進する。アロプレグナノロン(allopregnanolone) などのプロゲステロン代謝物 は、その反対に、GABA 塩素イオン透過孔で神経安定剤に親和性のある受容体に作用するリガンドである。プロゲステロンは神経系の代謝と伝達を低下させ、癲癇の誘発と癲癇型放電を抑制する。」この分野の研究は、引用文献の年代を見ると少なくとも 1955 年にさかのぼることができる (Almqvist R. The rhythm of epileptic attacks and its relationship to the menstrual cycle. Acta Psychiatr Neurol Scand 1955;3O(Suppl 105):l-116)
癲癇発生のメカニズムにおけるエストラジオールとプロゲステロンの役割は十分理解され確立されていると見ていい。これは「PMS-月経前症候群-とは?」で見た、癲癇頻度がプロゲステロンが高いときに減少し、エストラジオールが高くプロゲステロンが低い期間に増加するという現象をよく説明する。
より新しい『Hormones and Epilepsy (Mira Katan 2011) というレビューでは、脳におけるホルモンの作用がより詳しく説明されているが、上の理解を否定するようなことは一切示唆されていない。 さらに、最近 NIH (米国の国立衛生研究所) の出資によって、プロゲステロン療法の効果を証明する臨床治験が実施されている。『Neuroendocrine aspects of catamenial epilepsy(Doodipala Samba Reddy, 2012) は、「動物モデルを使った実験では、神経ホルモンが月経随伴性てんかんを予防することが示されてきた。しかも、長期の治療でも耐性による治療効果の低下は見られないことも知られていた。最近行われた NIH 出資による偽薬コントロール付の第三段階の(患者数を増やした)臨床治験で、プロゲステロン療法が月経随伴性てんかんに効果があることが証明されたが、他の種類の癲癇患者では効果が見られなかった。」と報告している。

マグネシウムとの関係

癲癇の研究で良く知られていることのひとつに、低マグネシウムとの関係がある。『Surface charge impact in low-magnesium model of seizure in rat hippocampus(Dmytro Isaev, Gleb Ivanchick, Volodymyr Khmyz, Elena Isaeva, Alina Savrasova, Oleg Krishtal, Gregory L. Holmes, Oleksandr Maximyuk. J Neurophysiol. 2012) でのレビューによると、「癲癇の低 Mg2+ モデルは、数十年前に開発され、以来、抗癲癇薬テストのモデルとして幅広く使用されてきた。Mg2+ 欠乏はヒトにおいて、癲癇誘発刺激に対する感受性を高め、癲癇の原因にもなることが知られているので、この癲癇モデルは臨床的にも意味がある。血清および脳脊髄液中の Mg2+ 濃度が全身性硬直性間代性発作の患者では低いことが知られている。さらに、Mg2+ の静脈注射は、動物モデルでは癲癇を抑制し、癲癇の治療、特に妊娠中毒症による痙攣発作の治療に使用されている。」
Serum ionized magnesium and calcium levels in adult patients with seizures (R Sinert, S Zehtabchi, S Desai, P Peacock, B T Altura, B M Altura, 2007) によると、「健常者に比べて、癲癇患者の血清中の総 Mg 濃度は低くないが、平均 Mg2+は有意に低く、Ca2+/Mg2+ の比率も有意に高い。。。マグネシウムは、N-methyl-D-aspartate (NMDA) 受容体を介して興奮性のカルシウムの流入を妨害するので、癲癇発作に影響する可能性のある物質である。ここでは、癲癇の種類によっては血清中のイオン化されたカルシウム (Ca2+) とマグネシウム (Mg2+) が有意に変化しているという仮説が成り立つ。」
Can magnesium supplementation reduce seizures in people with epilepsy? A hypothesis(Yuen AW, Sander JW, Epilepsy Res. 2012) によると、「特定の病状を示す患者にマグネシウムの補給を行って癲癇発作をコントロールしたケースが報告されている。さらに、最近行われたランダム化した治験では、点頭癲癇には副腎皮質刺激ホルモン ACTH)+マグネシウムが、ACTH 単独より効果があるという結果が報告されている。」

プロゲステロンとマグネシウムの関係

Ray Peat (Ph.D.) は一般向けの小冊子『Progesterone in Orthomolecular Medicine(1993) で、エストロゲンとプロゲステロンの生理作用の多くは、エストロゲンが細胞内にカルシウムイオン(Ca2+) を、プロゲステロンがマグネシウムイオン (Mg2+) を取り込む作用に依存していること、プロゲステロンは即効性のカルシウム・ブロッカーとして作用することなどを説明している。
排卵後のプロゲステロン(黄体ホルモン)が分泌される期間は、黄体期と呼ばれるが、この期間には体温が上がるため高温期とも呼ばれる。体温が上がるということは基礎代謝率が高くなるということであり、それを支えるさまざまの生理化学反応プロセスの多く(300以上)に関わっているマグネシウムの消費量も上がることになる。
これはどういうことかというと、排卵の翌日から生理の数日前までプロゲステロンが分泌され、それが細胞内のマグネシウムイオンレベルを高くしてマグネシウムの需要を満たす。このときマグネシウムの摂取量が十分でないと、体内のマグネシウムがどんどん欠乏していくが、プロゲステロンが高い間は何とか細胞内マグネシウムイオンの供給が維持される。生理が近くなってプロゲステロンの分泌量が落ちてくると、マグネシウム欠乏を反映して細胞内マグネシウムイオンの濃度も低下する。つまり、細胞内マグネシウムの需要と供給のバランスが崩れることになり、さまざまの生理機能が均衡を失う。この時期は月経随伴性てんかんやPMS、便秘などが最も悪化する時期に対応している。単純にプロゲステロンがそれらの症状の原因だとしたら、プロゲステロンが高くなる黄体期中期に悪化するはずだし、エストロゲン優位が直接の原因だとしたら、プロゲステロンがまだ分泌されずエストラジオールのみが高くなる排卵前後に最も悪化するはずである(この時期に悪化する例もある)。高温期が終わりマグネシウムの需要が低下すると、マグネシウム不足が解消され症状が消える。極度のマグネシウム欠乏になっている場合、プロゲステロンの助けがあっても、マグネシウム不足に苦しめられる期間が長くなることは十分考えられる。 PMS をこのように捕らえると、排卵後のプロゲステロンとマグネシウムの補充が症状を軽減または解消することもうなずける。

マグネシウムと月経周期

Sex steroid hormones modulate serum ionized magnesium and calcium levels throughout the menstrual cycle in women (O Muneyvirci-Delale, V L Nacharaju, B M Altura, B T Altura, 1998) は生殖能のある健常な女性の血清中のホルモンレベルと活性マグネシウム/カルシウムのレベルの関係を月経周期の異なった3時点で測定している。 イオン化マグネシウムは初期卵胞期(生理終了直後)に高く、排卵時に低くなり、黄体期中期にプロゲステロンがピークに達するころには、イオン化マグネシウムも総マグネシウム量も低くなるので、Ca2+/Mg2+ の比率が高くなる。この観察から言えることは「血清中の生理的活性のあるこれらの重要な陽イオンの変化は、ここで観察された範囲で変動すれば、特に、Ca2+/Mg2+ 比率が高い場合、血管、シナップス伝達、興奮分泌連関などに影響し、Mg が欠乏しがちな女性で PMS などを誘発することは十分ありえる。」ということである。
面白いことに、Premenstrual increase of intracellular magnesium levels in women with ovulatory, asymptomatic menstrual cycles. (F Facchinetti, P Borella, M Valentini, L Fioroni, A R Genazzani,1988) では、血清中マグネシウムのレベルに変動は見られなかったが、リンパ球と多型核細胞の細胞内 Mg が黄体後期に高くなるという結果が報告されている。これはプロゲステロンが細胞内にマグネシウムを取り込む機能を支えていることから当然期待される現象である。この結果から推測できることは、PMS などを避けるには、血液中のマグネシウムレベルが黄体期にも下がらないようにする必要があるということであろう。
現代人の食事にはマグネシウムが不足していること (Dietary magnesium intake in a national sample of US adults. Earl S Ford, Ali H Mokdad 2003)、マグネシウム補給が健康増進やさまざまの疾患の予防に役立つことは長年指摘されてきたことである。1988年には、R J Elin (Clinical Pathology Department, National Institutes of Health, Bethesda, Maryland) Magnesium metabolism in health and disease』でマグネシウムの重要性と米国における隠れた慢性マグネシウム欠乏症の影響について次のように指摘している。
米国民の多くがマグネシウムを十分摂取していない可能性があり、隠れた慢性マグネシウム欠乏症になっている疑いがある。動脈硬化、心筋梗塞、高血圧、癌、腎結石、PMS、精神病などが 隠れた慢性マグネシウム欠乏症に関係していることも示されてきた。
あれから20年以上経ち、Seelig と Durlach 1960年代のはじめに、マグネシウムの摂取と排泄のバランスを調べた研究に基づいて、1日に必要なマグネシウムの摂取量は 6 mg/kg/日であると指摘した (Seelig, M.S: The requirement of magnesium by the normal adult. Summary and analysis of published data. Am J Clin Nutr 14(6), 342-390 (1964))。 それから50年が経っている。しかし、この知識は一般に広められていないばかりか、医療専門家の間でも理解されていないが、その重要性を示す研究はたくさんある。たとえば、マグネシウム補充は炎症を抑制し、循環器系の病気にはコレステロールを下げるためのスタティンよりも、血液抗凝固薬としてのアスピリンよりも効果がある。さらに、救急医療における生存率を高くする (The therapeutic use of magnesium in anesthesiology, intensive care and emergency medicine: a review. Laurent Dubé, Jean-Claude Granry. 2003)

便秘の発生メカニズム

排便に影響する要因(水、繊維質、マグネシウム、プロスタグランデン、腸内細菌、ストレス、運動など)のほとんどは月経周期と関係なく操作できるが、上で見たマグネシウムと月経周期のように依存関係や交互作用がある場合も考えられる。  
Association between dietary fiber, water and magnesium intake and functional constipation among young Japanese women. 2007 by K Murakami, S Sasaki, H Okubo, Y Takahashi, Y Hosoi, M Itabashi には「比較的繊維質の摂取量が少ない人々の場合、マグネシウムと食物からの水分の摂取量の低さがそれぞれ独立に機能的便秘になりやすい要因となっている」と報告されている。しかし、多くの女性にとっては月経周期が大きな要因になっているように見える。Relationships between symptoms, menstrual cycle and orocaecal transit in normal and constipated women. (G K Turnbull, D G Thompson, S Day, J Martin, E Walker, J E Lennard-Jones 1989) の報告によると、「... 患者は月経周期に伴う便秘の変動に気が付いており、そのすべてのケースで、生理の直前または生理中に便秘が改善している。」私の場合もそうだった。

プロゲステロン受容体タイプ

月経周期が関係しているとなると、最初に調べるのはホルモンである。便秘の場合、抑制作用のあるプロゲステロンに関心が集中する。ホルモンの研究を複雑にする要因の一つに各ホルモンが複数のタイプの受容体を持っているということがある。多くの場合、ホルモンの働きはホルモン自体によって決まるのではなく、細胞に発現するホルモン受容体のタイプによって決まる。プロゲステロンの受容体には A (PRA) B (PRB) があり、組織細胞において PRA が優位になっているときはプロゲステロンの作用(抑制作用=Mgの取り込みなど)はブロックされる。お産に必要な子宮の収縮運動は PRA の増加によってもたらされる(Nuclear progesterone receptors in the human pregnancy myometrium: evidence that parturition involves functional progesterone withdrawal mediated by increased expression of progesterone receptor-A., Merlino, et. al., 2007)。腸では、PRA PRB より低くなると、プロゲステロンの作用が強くなって腸の動きが減少し、便秘になる。つまり、お産に必要な子宮の収縮にも、排便に必要な大腸の運動にもプロゲステロン受容体Aによってプロゲステロンの作用がブロックされる必要がある。このプロゲステロンの作用は他の平滑筋(血管など)でも同様で ある(Broad tissue expression of membrane progesterone receptor Alpha in normal mice. Shaojin You, Lian Zuo, Vijay Varma 2010)
このプロゲステロンの腸に対する作用はJose Behar (Rhode Island Hospital and Warren Alpert Medical School at Brown University) を中心とする研究者のグループによって研究され、便秘で苦しんでいる人の大腸ではPRBが過剰に発現していて、正常者に比べて大腸筋に対するプロゲステロンの作用が強くなっていることが示された。さらに、正常な大腸筋細胞を超高濃度のプロゲステロンに6時間さらすとプロゲステロン受容体が異常になることも示された。とはいえ、一方には妊娠中などプロゲステロンの分泌量が高いときに皆が便秘になるわけではないという現実があることも見逃すことはできない。ちなみに、妊娠中の便秘は25%の人に見られるとのこと。つまり、高レベルのプロゲステロンにさらしただけでは便秘の発生条件として十分ではない。プロゲステロン受容体Bの過剰発現あるいはプロゲステロン受容体Aの寡少発現に関係している要因は他にもあると考えられる (Overexpression of progesterone receptor B increases sensitivity of human colon muscle cells to progesterone. Ling Cheng, Victor Pricolo, Piero Biancani, Jose Behar 2008; Progesterone receptors and serotonin levels in colon epithelial cells from females with slow transit constipation. M Guarino, L Cheng, M Cicala, V Ripetti, P Biancani, J Behar 2011)
私の経験では、生理直前の便秘の解消には、お産と同様、一種の切り替えスイッチのようなメカニズムがあるように思われた。生理の始まる二日前になると毎月必ず、そのスイッチが切り替わるのを感じた。便秘が解消して体調が正常に戻りほっとする。そのとき、尿に独特の芳香が混ざっていることに気が付いたこともある。しかもその日に一回きり。子宮と卵巣の摘出手術をした後も何年も続いていたから、切り替えは子宮や卵巣とは関係なく行われているものと思われる。

プロスタグランデンの役割

プロスタグランデンは炎症と痛みを促進する。アスピリンなどの痛み止めの薬は、その生成に必要なCOX-1 および COX-2 という酵素を抑制する。プロスタグランデンの受容体タイプと大腸のぜん動運動との関係も知られている。プロスタグランデンにはいろいろあり、その多く (たとえば、PGF2α PGE2) は平滑筋(血管、消化管、子宮など)の収縮を活発にする。例外は PGE2 とその受容体 EP2 の組み合わせで、PGE2 と受容体 EP1 の組み合わせでは腸の運動が活発になるのに対し、PGE2 EP2 の組み合わせでは腸と子宮の運動が抑制される (Characterization of the EP receptor types that mediate longitudinal smooth muscle contraction of human colon, mouse colon and mouse ileum. S E Fairbrother, J E Smith, R A Borman, H M Cox. 2011)。便秘にも下痢にもPGE2 が関係していると言われているにもかかわらず、今のところ IBS の研究で PGE2 とその受容体について調べた研究にお目にかかっていない。もう一つPGE2の研究で注目されるのは、脳で発現するPGE2受容体、EP3 PMSの精神心理的症状との関係である (Prostaglandins and premenstrual syndrome. N Koshikawa, T Tatsunuma, K Furuya, K Seki 1992; [The mechanism of prostaglandin effects on GABAa receptor at molecular level.]  Sugimoto 2009). 

マグネシウムとの関係

便通とマグネシウムの関係も見逃せない。各種のマグネシウム塩が効果的な下剤として使用されてきた。Magnesium hydroxide: new insights into the mechanism of its laxative effect and the potential involvement of prostaglandin E2. by M Donowitz, R P Rood (1992) は、水酸化マグネシウムが下剤としていかに効果的かを次のように報告している。
(a) 排便回数の増加
(b) 便に含まれる水分の増加
(c) 便の量の増加
(d) 便に含まれる Mg2+ の増加
(e) 24-時間の合計便量中のプロスタグランデン E2 (PGE2)Mgの投与量に比例して増加
この結果からは、マグネシウム塩の下剤はプロスタグランデンE2 (PGE2) を増加させることによって便通を促進するように見える。
大腸内部の便に含まれる水分は、腸壁からの水分の吸収をブロックすることによっても、逆に腸壁内の血液から腸内に水分を放出することによっても増加させることができる。一般に下剤には2種類あって、一つは浸透圧を利用し、もう一つは腸を刺激する。 マグネシウムはその電気化学的特性によって、腸内の水分が増加する方向に腸内壁の浸透圧を変更すると考えられている。センナのような刺激性の下剤は、腸内壁を刺激 することによって腸の粘膜で生化学反応を誘発したり神経末端を刺激したりして水分の吸収をブロックするか腸の運動を活発にすると考えられている (WikipediaLaxativeを参照 )
マグネシウム製下剤の浸透圧理論では、腸管内部でマグネシウムイオンの濃度が相対的に腸壁や血管壁より高くなると、腸内の水分が増加する方向に浸透圧が変化する。さらに、腸壁細胞に取り込まれたマグネシウムイオンは水分の移動を促進する aquaporin-3 を増加させる。Aquaporin (AQP) は人体における水分の移動経路であり、いろいろ種類があるが、AQP3は主に大腸内に発現し、腸壁内の血管と腸管内部との間の水分の移動を促進する(The elucidation of the function and the expression control mechanism of aquaporin-3 in the colon. Ikarashi N. 2013)
上の Donowitz Rood の研究ではPGE2 の増加とマグネシウムとの関係が観察されたが、PGE2 の増加につながる要因はいろいろある。生理時には子宮で PGE2 PGF2a の両方が増加して血管が収縮し子宮内膜の剥離が始まるが、子宮およびその周辺の血流が減少すると共に、排便回数が増え、柔便になる。マグネシウムだけでなく刺激性の下剤も PGE2 を増加させる。
The elucidation of the function and the expression control mechanism of aquaporin-3 in the colon. (Ikarashi N. 2013) では、刺激性下剤、bisacodyl PGE2 を増加し、その結果粘膜上皮細胞の AQP3 の発現が低下して、水分の吸収が阻害され、それが下痢につながると説明されている。
これらの観察を合わせて見えてくるシナリオは、マグネシウムが欠乏している場合(一般に高頻度で見られる)、プロゲステロンは細胞内へのマグネシウムの取り込みを増加させるから、その分腸管内のマグネシウム濃度が下がり、浸透圧の変化と Aquaporin-3 の増加によって水分の吸収が増加し、便が硬くなって便秘なる。さらに、プロゲステロン受容体Bの増加はマグネシウムの欠乏を補うために、プロゲステロンの作用を強化してマグネシウム取り込みを強化するためという可能性もあるのかもしれない。

腸内細菌の作用

ヨーグルトなどのプロバイオティク(善玉菌)が便通を良くするというのはよくその種の製品の宣伝でも聞くことである。腸内の善玉菌が強ければ、カンジダアルビカン(イースト菌の一種)のような悪玉菌を抑えることができるというわけである。腸内細菌の研究は近年さまざまの話題を呼んでる分野であり、肥満から精神疾患までが、腸内細菌の影響が大きい問題だといわれ始めている。マグネシウム欠乏は悪玉菌の増殖の原因であり結果でもある (Normocalcemic tetany and candidiasis. L Galland 1985)。炎症とプロスタグランデンも腸内細菌の影響を受ける。

[Predominance of constipation in subjects with hydrogen-consuming intestinal flora]. (Dima et. al. 2012) 
の報告では、「ラクチュロース呼気検査で見られる水素の発生が低い IBS 患者は、そうでない人に比べて便秘が6倍ある。」

面白いことに、The hypersensitivity to colonic distension of IBS patients can be transferred to rats through their fecal microbiota (L. Crouzet, et. al. 2013) には、IBS 患者の大腸膨満に対する過敏症を、腸内細菌 (硫黄を低下させるバクテリアと腸内細菌群が多く、乳酸菌が少ないを、患者の便を使ってネズミに移植することによって感染させることができると報告されている。
便秘の原因はさまざまでも、便秘自体が健康に悪影響を及ぼす要因であることも見逃せない。IBS 患者にはうつや不安感その他PMSで見られるすべての症状が報告されているから PMSの一部は便秘が原因になっているといえるかもしれない。マグネシウムが欠乏し、体内で発生した毒素が体内に長時間留まり、再吸収されるということになれば、深刻な影響は避けられない。便秘は利便剤や下剤を使って早めに対処するに越したことはない。しかも、マグネシウムの補給にもなる下剤があるのだから、それを使わない手はない。

下痢

便秘とプロゲステロンの関係を見ると、便秘が発生する月経周期では排卵がありプロゲステロンの分泌があったが、マグネシウムが欠乏していたためにPMSや便秘になった可能性が高いといえるようだ。反対にプロゲステロンが分泌されない、エストロゲンのみの月経周期では、下痢が発生しやすいというのが私の経験から言えることである。
男性の IBS では下痢が多く、テストステロンによるカルシウムを介した大腸筋活動の刺激が指摘されている (Androgens Induce Nongenomic Stimulation of Colonic Contractile Activity through Induction of Calcium Sensitization and Phosphorylation of LC20 and CPI-17. María C González-Montelongo, Raquel Marín, Tomás Gómez, Jorge Marrero-Alonso, Mario Díaz. 2010)。プロゲステロンはカルシウムブロッカーとしての作用があるので、この場合も下痢を抑える作用が期待される。 

PMSの発生メカニズム

マグネシウム欠乏 + プロゲステロン不足(エストロゲン優位)
結論から先に述べると、PMSはマグネシウム欠乏とプロゲステロン不足(エストロゲン優位)によって発生すると考えられる。これまでに月経随伴性てんかんと過敏性腸症候群/便秘で見てきたように、ホルモンバランスが崩れていてもいなくてもマグネシウム不足があればPMSが発生するので、マグネシウムが主要な役割を担っているといえるが、プロゲステロンが不足してホルモンバランスが崩れると、さらに悪化する。マグネシウムが不足すると、ホルモンバランスにも影響して悪循環になる可能性もある。
マグネシウムがPMSの原因であり症状の程度も左右すると提唱した最初の人は、Abraham (Nutritional factors in the etiology of the premenstrual tension syndromes. G E Abraham1983) で、1980年代の初期に、PMSに対するマグネシウムとビタミンB6を主体とした栄養剤の効果を実証している。似たような実験が最近になって、イラン (Evaluating the effect of magnesium and magnesium plus vitamin B6 supplement on the severity of premenstrual syndrome. Fathizadeh N, Ebrahimi E, Valiani M, Tavakoli N, Yar MH. 2010) とイタリア (Pilot study of the efficacy and safety of a modified-release magnesium 250 mg tablet (Sincromag) for the treatment of premenstrual syndrome. 2007) でも行われその効果が確認されている。 マグネシウム補給の効果は、PMSに関連した頭痛 (Magnesium prophylaxis of menstrual migraine: effects on intracellular magnesium. Facchinetti F, Sances G, Borella P, Genazzani AR, Nappi G. Headache. 1991) でも、水分貯留(むくみ) (Magnesium supplementation alleviates premenstrual symptoms of fluid retention. Walker AF, De Souza MC, Vickers MF, Abeyasekera S, Collins ML, Trinca LA. J Womens Health. 1998) でも確認されている。
プロゲステロンの使用はそれより古く、1977年には、Katharina Dalton というイギリスの医者が本物のプロゲステロンを使ってPMSの治療に成功した経験に基づいてThe Premenstrual Syndrome and Progesterone Therapy という本を書いている。プロゲステロンオイルの開発者である Raymond Peat (Ph.D.) は、1993年に Progesterone in Orthomolecular Medicine という一般向けの小冊子で、PMS はエストロゲン優位症候群の一部であり、エストロゲン過多、プロゲステロン不足、または両方によってバランスが崩れると発生する、さらに、プロゲステロンの生理作用の多くは細胞内マグネシウムイオン、亜鉛、酸素などを増加し、細胞内水分を減少する作用に基づいてると説明している。
PMS に対するホルモンの影響は、PMS 症状、エストラジオール、プロゲステロンなどのレベルの月経周期に伴う変動を測定することによって研究されてきた。エストラジオールやプロゲステロンをブロックしたり補給したりする研究も行われてきた。それらの研究で一貫してみられたことは、プロゲステロンが正常レベル以上でも、月経周期全体を通じて、または生理前の期間にエストラジオールが高いこととPMSとの関係が見られる (明らかに、エストラジオールとプロゲステロンの比率が問題であることを示す)。プロゲステロン不足という点から見ると、生理前の期間にプロゲステロンレベルが低い、またはプロゲステロンの低下が早く始まることがPMSに関係している。
Correlations between progesterone, oestradiol and aldosterone levels in the premenstrual syndrome. M R Munday, M G Brush, R W Taylor 1981 (すべての PMS 患者で排卵が見られたが、生理前9日目から5日目の期間のプロゲステロン総量がコントロールグループより優位に低い。月経周期の最後の4日間のエストラジオールレベルがコントロールグループより高い。)
Luteal-phase estradiol relates to symptom severity in patients with premenstrual syndrome. L Seippel, T Bäckström 1998 (高エストラジオール、または高エストラジオール + 低プロゲステロン =PMS)
Lack of effect of induced menses on symptoms in women with premenstrual syndrome. P J Schmidt, L K Nieman, G N Grover, K L Muller, G R Merriam, D R Rubinow 1991 (プロゲステロン拮抗物質を使ってプロゲステロンをブロックすることによって黄体期を 1 週間短くして生理を誘発しても、PMS は阻止できない。つまり、プロゲステロンがPMSの直接の原因ではなく、プロゲステロンの分泌が続かないことの方が問題。)
Relationship between symptom severity and hormone changes in women with premenstrual syndrome. S Hammarbäck, J E Damber, T Bäckström 1989 (特に、黄体期のエストラジオールが高いことが PMS の重さあるいは気分の好くないことと相関していてる。)
Relationship between symptom severity and steroid variation in women with premenstrual syndrome: study on serum pregnenolone, pregnenolone sulfate, 5 alpha-pregnane-3,20-dione and 3 alpha-hydroxy-5 alpha-pregnan-20-one. M Wang, L Seippel, R H Purdy, T Bãckström 1996 (PMS 患者では有意に高いエストラジオール と有意に低いプロゲステロンが見られた。より重い症状は、黄体期での E2PePS の濃度が高いときに見られた。一方、黄体期の 5 alpha-DHP 5 alpha-THP の濃度が高いときは症状が軽い。)
Reproductive hormonal changes and catamenial pattern in adolescent females with epilepsy. Hamed A El-Khayat, Nancy A Soliman, Hoda Y Tomoum, Maher A Omran, Amany S El-Wakad, Rania H Shatla 2008 (女性のてんかん患者では、FSH P のレベルが低く、E/P 比率が高い。患者の 31% 低プロゲステロンに関係した月経随伴性てんかんのパターンがみられた。)
PMS 研究の歴史を振り返ると、PMS は主にプロゲステロンが分泌される黄体期に出現するので、プロゲステロンによって引き起こされるに違いないという単純な思い込みで説明しようとして苦しんだ跡が見られる。この単純な思い込みから、多くの医者は悪いのはプロゲステロンだと信じて、プロゲステロンの分泌が起きないように、排卵を止める治療をし、手術や薬で人工的に閉経=更年期を誘発するという、今から見ればまったく逆効果の治療をしてきた。そのような考えに捕われていた医者にはプロゲステロンをPMSの治療に使うなどということはまったく考えられないことだった。そのような医者や研究者は、月経周期を詳細に調べることをせず、PMSの症状はプロゲステロンが落ち始めるころに始まるという重要な事実を見逃していたに違いない。(それにしても、PMS をそれよりも健康に対する負のインパクトが大きい可能性のある更年期障害で置き換えるのを治療だと考える医学というのは、医学の名に値するのであろうか。)

そのことに気付いた一部の研究者は、PMSはプロゲステロン禁断症状だという仮説に飛びついた。しかし、この仮説の限界は、ちょっと考えてみればわかることで、PMSはプロゲステロン分泌が止まる生理前だけでなく、排卵直前にエストラジオールが急上昇するときにも見られるケースがあり、このときはまだプロゲステロンの分泌は始まっていないから、プロゲステロン禁断症状では説明できない。これはいわゆる「エストロゲン優位」という観点から説明した方が、生理前の発症メカニズムの説明との整合性が保てる。しかし、この説明にも限界があり、エストラジオールとプロゲステロンの比率を見ると、その比率が高くなるのは、排卵直前だけでなく、その前の1 週間ほどは卵胞期でエストラジオールが徐々に増加するのに対してプロゲステロンはまったく分泌されない、つまり、エストロゲン優位になる期間なのである。それにもかかわらずこの期間はPMSに悩まされない、一番気分のいい期間なのである。
このパターンを理解するには、先に説明したように、エストラジオールとプロゲステロンの比率に加えてマグネシウム不足のパターンを見る必要がある。マグネシウムが不足していても、プロゲステロンの助けによってある程度細胞内マグネシウムイオンのレベルを維持できる。しかし、血液中の予備のマグネシウムは低下していく。黄体期が終わり近くになってプロゲステロンの分泌が止まるころには、予備のマグネシウムは最低レベルになっているから、プロゲステロンの助けがなくなると、細胞内マグネシウムイオンのレベルを維持できなくなる。その影響が PMS という形で顕在化すると考えられる。だから、黄体期にマグネシウムの補給を行えばPMSを軽減できる。さらに、便秘のセクションで見たように、マグネシウム不足とプロゲステロンの組み合わせは便秘の原因になる場合があり、便秘がPMSの発現に寄与する要因の1つになるという構図が見えてくる。

PMDDの発生メカニズム

重いPMS患者のケースについては、体内で発生する毒素や重金属による汚染との関係を示唆する研究 (Calcium, magnesium, and other elements in the red blood cells and hair of normals and patients with premenstrual syndrome. Raymond J Shamberger 2003; Nutritional factors in the etiology of the premenstrual tension syndromes. G E Abraham 1983; Cigarette smoking and the development of premenstrual syndrome. Elizabeth R Bertone-Johnson, Susan E Hankinson, Susan R Johnson, Joann E Manson 2008) がある。Progesterone in Orthomolecular Medicine (Raymond Peat, 1993) によると、プロゲステロンは体を毒素から守る重要な作用を担ってということなので、体内に高レベルで毒素が存在すれば、その分プロゲステロンとマグネシウムに対する需要が高まり、不足しがちになると考えられる。これは、今日の汚染が進んだ環境での生活を考えると、もっと研究されてしかるべき研究テーマのように思われる。なぜこの分野の研究が進んでいないかについては、研究費にまつわる利益誘導操作や歪んだ意思決定過程が関係している可能性がある (それについては、Moyers Moment (2001)The Toxic Politics of Science などを参照)

腸内菌の作用

体内で発生する毒素の一つに腸内細菌由来の毒素がある。Intestinal microbiota, probiotics and mental health: from Metchnikoff to modern advances: Part II - contemporary contextual research.
(Bested, et. al., 2010)
によると、リポ多糖類 (LPS) などの病原性腸内細菌由来の毒素や炭水化物の発酵で発生する D 乳酸などは、気分障害、不安感、攻撃性、記憶障害、疲労感などの原因になることが示されている。さらに、マグネシウムと亜鉛が不足すると、腸内細菌の健全な多様性を阻害し、全身の毒素レベルが高くなると指摘されている。


2014/10/09

ホルモンバランス:崩れのパターン

ホルモン補充を始める前に理解しておくべき事柄
ホルモン補充の目的はバランスの取れた正常なホルモンレベルを回復することにあります。その基本は正常なホルモン分泌パターンを模倣するという比較的単純なものですが、何がどのように過不足なのかを理解できればその対処方法も回復過程もイメージしやすくなります。従って、ホルモン補充を始めるにあたって、正常な状態とエストロゲン過多やプロゲステロン不足になる過程、その兆候を理解しておく必要があります。
もう一つ重要なことはホルモン補充や治療用に販売されている薬には本物のホルモン(人体で生成されるホルモンと同じ分子構造の物質)と擬似ホルモンがあること、さらには品質に問題のある効力を持たないプロゲステロン・クリーム製品もあることを理解しておくことも重要です。

正常なパターン
[normal cycle.jpg]

崩れたパターン
[santoro-perimeno.jpg]
Characterization of Reproductive Hormonal Dynamics in the Perimenopause,
Santoro, N. et al., J Clin Endocrinol Metab, 1996, 81(4):1495-1501


エストロゲン優勢/過多(高エストロゲン/低プロゲステロン)という上図に見られるようなパターンが生殖機能が衰えってくる35歳ぐらいから45~55歳で閉経するまでの女性にとって、健康を脅かす最大の要因であるとの診断を下したのはドクター・リーの大きな功績です(実際には生物学者でプロゲステロン・オイル開発者のレイ・ピート博士が指摘していたことですが、天然黄体ホルモン(プロゲステロン)補充に対する患者の反応からそれを臨床の場で確認し、その知識を一般へ広めたのがドクター・リーと共著者のバージニア・ホプキンスです)。上図にあるようにこのパターンは前更年期の女性の尿中のホルモン代謝物質のレベルを毎日計った研究でもはっきり見ることができます。

通説では、更年期というのは卵巣機能の低下に伴って進行するので、閉経前でも当然、卵巣からの卵胞ホルモン(エストロゲン)分泌も黄体ホルモン(プロゲステロン)分泌も低下すると考えられています。従って、更年期の年齢に達している女性がさまざまの症状を訴えると大概の医者はまだ生理がある人にも無差別にエストロゲンと擬似プロゲステロンを組み合わせたホルモン補充を勧めるようです。これはいかにデータに基づかずに思い込みと憶測で診断と治療を行っている医者が多いかを示す恐ろしい例の一つです。
PMSは普通ならプロゲステロンの高くなる黄体期に発生する場合が多いため、プロゲステロンが引き金になると説明されていたりしますが、これは単純な相関関係と因果関係の区別を知らない人が言うたわごとです。しかもPMSが悪化する段階では上図のように黄体期でもプロゲステロンが高くならず、エストロゲンのみが高くなります。

ドクター・リーは生理が毎月あるのはエストロゲンが十分分泌されている証拠だから、決してエストロゲンの補充をしてはいけないと言っています。この時期にエストロゲンを補充すると、エストロゲン優勢/過多がいっそう悪化します。プロゲステロン不足という正しい診断を下した医者でも、擬似プロゲステロンを処方する、高量の経口プロゲステロンを処方するなど、間違ったホルモン補充を処方するのが「標準治療」として認められているので、患者は十分注意する必要があります。

参考リンク・文献・資料
Characterization of Reproductive Hormonal Dynamics in the Perimenopause,
Santoro, N. et al., J Clin Endocrinol Metab, 1996, 81(4):1495-1501




ホルモンバランス:崩れの推移

生殖機能の衰えに伴って発生するホルモンバランスの崩れの推移を順を追って見てみましょう。
初期-この段階ではまだ生理の乱れや変調が見られないのが普通ですが、正常パターンとの比較ではLHとFSHが既に異常に高くなっているので、卵巣過剰刺激状態になっています。エストロゲンはまだ高くなっていませんが、黄体期の黄体ホルモンが低くなっているためエストロゲン優勢になります(図1参照)。この時期には黄体化非破裂卵胞症候群(LUFS Luteinized Unruptured Follicle Syndrome) があったりします。PMSの主症状としてイライラを上げる人が多いのは、鎮静剤として重要な作用を持つプロゲステロンとその派生ホルモンの不足を反映しています。

むくみとそれから派生する症状、つまり、卵巣過剰刺激症候群(ovarian hyperstimulation syndrome: OHSS)の初期症状が見られるようになります。軽度の場合は、「病気」とは考えられていない症状が多く、不定愁訴、PMS、月経困難症、といったラベルがよく使用されます。周期も短くなる傾向があります。卵巣の過剰刺激を抑制しOHSSを予防するためにプロゲステロンの補給が必要になってくる時期です。PMSの80%はプロゲステロン補充で改善すると言われています。不妊治療でのOHSSの予防にはプロゲステロンの補給が必須とされています。

PMSは普通ならプロゲステロンの高くなる黄体期に発生するため、プロゲステロンが引き金になると説明されていたりしますが、これは単純な相関関係と因果関係の区別を知らない人が言うたわごとです。しかもPMSが悪化する段階では黄体期でもプロゲステロンが高くならず、エストロゲンのみが高くなります(図2参照)。
[swan_premeno.jpg]
▲図 1. 生殖機能の衰え初期: 1周期分のホルモン推移 
出典:Santoro et al., Menstrual Cycle Changes across the Menopause Transition 
J Clin Endocrinol Metab, June 2004


中期-この段階になると、LHとFSHだけでなくエストロゲンが非常に高くなり(図2参照)、卵巣過剰刺激症候群(ovarian hyperstimulation syndrome ; OHSS)、つまり排卵促進治療を受けたときの副作用と同じような症状(卵巣がはれる、多のう胞性卵巣、下腹部痛、腹部に水がたまりおなかが張る、むくむ、体重増加、尿が少なくなる)や皮膚の奇妙なかゆみやミミズ腫、不正出血、生理不順、重い生理、乳房の張りやしこり、その他が程度の違いはあってもはっきりしてくる時期です。

排卵があるように見えても、正常との比較で見ると、エストロゲンが著しく高くなっているのに対し、プロゲステロンが高くなるべき黄体期にもプロゲステロンはわずかしか上がらずエストロゲンが著しく高くなっています。FSHとLHが引き続き高く卵巣過剰刺激が進行していますが、無排卵月経も多くなります(図3参照)。

これは最も危険なホルモンパターンで、40歳前半には乳房の張りやしこり、生理前の下腹部の痛みや腫れ(腹水、卵巣のう腫、多のう胞性卵巣)、不正出血、生理不順、重い生理などで異常に気が付く人が増えてきます。乳ガン、子宮ガン、子宮筋腫、子宮肥大などのリスクも高くなってきます。

卵巣過剰刺激症候群の根底には血管壁の透過性が異常に上がるという現象があるわけですが、そのメカニズムは解明されていないという説明をあちこちで見かけます。とんでもない話です。エストロゲンとプロゲステロンが細胞膜や血管壁の透過性に正反対の影響を及ぼすことは何年も前からレイ・ピート博士が指摘していたことです。

エストロゲンとプロゲステロンは表皮細胞の透過性をコントロールするCFTR(cystic fibrosis transmembrane conductance regulator)という物質の増減を左右することが確認されています。もちろんエストロゲンは表皮細胞の透過性を増加し、プロゲステロンはそれを抑えるように作用します。これは動物実験で確認されていることですが、卵巣過剰刺激症候群の予防にプロゲステロンが重要であることが臨床実験でも繰り返し確認されている事実を無視することはできません。
卵巣過剰刺激を抑制し、エストロゲン過多とプロゲステロン不足を補正して細胞膜の浸透性を正常化するためにプロゲステロンの補充が最も重要な時期です。余分なホルモンが体にたまらないように排泄機能の管理も重要です。このときに糖尿病、インシュリン抵抗、慢性ストレスなどがあると、症状はいっそう悪化します。
[santoro-perimeno.jpg]
▲図 2. 生殖機能の衰え中期: 1周期分のホルモン推移 
出典:Characterization of Reproductive Hormonal Dynamics in the Perimenopause, 
Santoro, N. et al., J Clin Endocrinol Metab, 1996


閉経前数年間の典型的なパターンを見せる人の例-低エストロゲンがしばらく続いたかと思うと、高レベルのFSH/LHサージが繰り返されて、その後エストロゲンが異常に高い値で続く一方、黄体ホルモンが上がらない(無排卵)期間が長く続くのが特徴。この期間には、生理がしばらく止まったと思ったら、重い生理が来るというパターンを繰り返す人も少なくありません。ホルモンの大きな変動が気分や体調にも反映され不安定になります。次第にエストロゲンもプロゲステロンも上がらない閉経後のパターンに移行していきますが、この期間を無事に乗り越えるには、ストレスや栄養管理に加えて、プロゲステロンの補給が重要な役割をします。
[swan_perimeno.jpg]
▲図 3. 生殖機能の衰え中期:258日間のホルモン推移 
出典:Characterization of Reproductive Hormonal Dynamics in the Perimenopause, 
Santoro, N. et al., J Clin Endocrinol Metab, 1996


早発性卵巣機能不全(35歳以下で卵巣機能不全の診断を受けた人の例)-通常の更年期と同じようにFSHとLHが高レベルで推移し、卵巣の過剰刺激が見られます。黄体ホルモンが上がることがないのに対してエストロゲンが高くなる期間が時々あり、それに伴って生理もたまにあります。閉経後と同じような低エストロゲン状態になっている期間も見られます。
[swan_perimeno.jpg]
▲図 4. 生殖機能の衰え:早発性 
出典:Characterization of Reproductive Hormonal Dynamics in the Perimenopause, 
Santoro, N. et al., J Clin Endocrinol Metab, 1996


後期(閉経後)-FSHもLHも高レベルで推移しています。FSHの上がり下がりが少なくなっていますが。LHには上がり下がりが見られますます。一方エストラジオールとプロゲステロンはゼロ近くで安定しています。
[post-meno.JPG]
▲図 5. 生殖機能の衰え後期:閉経後のホルモン推移 
出典:Characterization of Reproductive Hormonal Dynamics in the Perimenopause, 
Santoro, N. et al., J Clin Endocrinol Metab, 1996


閉経前後から閉経後数年(平均5年ともいわれていますが、10年以上続く人もいます)にかけて最もよく見られる症候群は血管運動神経障害症候群です。突発的に発生するほてり、のぼせ、発汗、寝汗、動悸、さらには頭のモヤモヤ、疲労感などが自覚症状です。これはエストラジオールの上がり下がりが激しくなり、生理が不順になる閉経前にも見られ、エストラジオールもプロゲステロンもゼロ近くで安定する閉経後も続きます。エストラジオールが高レベルで上がり下がりする時期にも発生する理由は、これが一種の禁断症状だからです。

この種の更年期障害の重さには大きな個人差があり、エストラジオールが異常に高くなった程度が大きいほど、その期間が長かったほど、つまりPMSの症状が重く長期間続いた人ほど更年期障害も重くなるという報告があります。この症状を抑えるのが目的でホルモン補充を始める人が多いようですが、理想的にはプロゲステロンが低下し始める初期段階からプロゲステロンの補充を開始し、生理が不順になって滞り勝ちになったら、必要に応じて超低量エストラジオール(1日あたり25~50マイクログラム)の張り薬をプロゲステロンと併用するのがもっとも安全で効果的です。

膣の潤いの減少はエストロゲンの絶対量が低下すると発生します。これは膣だけでなく尿道や膀胱の組織にも影響し、尿が漏れやすくなったり、炎症を起こしやすくなったりします。それはその部分への血液の供給が低下するのが直接の原因ですが、ホルモンの低下による血液供給能力の低下(必要に応じた血管の拡張能力が低下する)は全身で発生し、いわゆる老化による組織の退化萎縮が進行します。血管運動神経障害症候群が消えた後でもエストロゲンの補充を考えるとすれば、これらの問題への対処の一環としてホルモン補充を含める場合です。

参考リンク・文献・資料
Menstrual Cycle Changes across the Menopause Transition
    Santoro et al., J Clin Endocrinol Metab, June 2004, 89(6):2622-2631

Characterization of Reproductive Hormonal Dynamics in the Perimenopause,
   Santoro, N. et al., J Clin Endocrinol Metab, 1996, 81(4):1495-1501

Estrogen-induced abnormally high CFTR expression results in ovarian hyperstimulation syndrome 
   Louis Chukwuemeka Ajonuma, et. al., First published July 28, 2005 as doi:10.1210/me.2005-0114