2015/01/08

骨質も骨量と同じだけ重要

骨質とは
従来、骨の強度は骨密度によって測定されてきましたが、ビスフォスフォネート系の骨吸収阻害薬によって骨量が増えても骨折の予防にならないことがはっきりして、骨の強さは骨量のみによって決まるものではないことがわかり、実は「骨質」も重要であることがわかってきました。
ホルモンと骨質
ここでもホルモンが重要な役割を担っています。
下図は骨の内部構造の3D画像ですが、A44歳の女性のもの、B61歳の女性のものです。BAに比べて鉱物質の硬い部分がまばらになっています (Masako Ito, 2006)




骨密度は骨の強度の測定に使用されていますが、骨の体積の50 %は軟らかいコラーゲン(たんぱく質) です。骨を硬くするカルシウムなどの鉱物質はコラーゲンが形成するマトリックスによって固定されているのです。このコラーゲンマトリックスが劣化して硬くなると、骨はチョークのようにもろくなりますが、そのような変化は骨密度の測定には反映されません。
「骨密度が同じでも若者と高齢者とでは10年間の骨折リスクに10倍の差があります。。。高齢者の骨折の50%以上が骨密度のTスコアが -2.5 -1 にある人で発生していますが、この骨密度は世界保健機構の骨粗鬆症の定義に該当しない範囲です」(Bone quality and osteoporosis therapy. Regina Matsunaga Martin, Pedro Henrique S Correa 2010)
コラーゲンだけでなく、たんぱく質一般の老化に伴う劣化はよく知られた現象です。その結果、しわや血管の硬化だけでなく、目、脳、腎臓、肝臓、その他のあらゆる組織が硬化します。その硬化のメカニズムもよく知られています。主な原因はグルコース(血糖)とホモシステインです。たんぱく質をグルコース液に浸すと、糖質がタンパク質と結合して、糖焼けという現象がおきます。ホモシステインは強力な酸化作用を持つフリーラジカルの発生源です(Mitsuru Saito 2008 (Japanese))。たんぱく質は酸化作用によって損傷し硬くなって本来の機能を失います。その結果、骨も腱も茶褐色に変色します。
骨折した骨:コラーゲンが変色し、劣化している
ホモシステインは、たんぱく質の構成要素である硫化アミノ酸の中間代謝物質であり、その副産物である超酸化物と過酸化水素は強力な酸化作用を持ち、組織を硬化します。糖尿病に多くの合併症がある理由は、血糖値が高いために、この過程が加速され、その過程で腎臓が劣化するので、ホモシステインを取り除く能力が低下して、雪だるま式に劣化が加速するのです。
組織の損傷によって炎症連鎖反応が発生するので、さらに組織の損傷が広がります。コラーゲンの場合、新しく組織が再生されるとき、コラーゲンで形成されるマトリックス状の構造を固定するコラーゲン架橋という構造体が形成されますが、コラーゲンが糖焼けすると、コラーゲン架橋が糖焼けしたコラーゲンで形成され、本来の機能を果たさなくなり、骨の場合はコラーゲンマトリックスが硬くなるだけでなく、石灰化を阻害して正常な骨密度を達成できなくなります (骨の材質を反映するマーカーの骨折危険性の評価への応用と課題、斉藤 2008)
フリーラジカルやストレスホルモンを増加するものには、低レベルの感染性や炎症、間違ったホルモン療法など、あらゆる種類の毒素が含まれます。それだけでも骨の劣化が発生します。もちろん、骨が劣化するときは、体のすべての組織が劣化します。
骨質劣化の生化学マーカー
骨も含めて、体がどの程度この種の劣化にさらされているかは、ホモシステインとペントシジン(糖と結合したコラーゲン)の血液中および尿中のレベルによって知ることができます。皮膚に蓄積した糖焼けしたたんぱく質も骨のコラーゲン劣化の指標となります。
幸いなことに、血糖値もホモシステインレベルも、食事、運動、栄養補助剤、ホルモン補充などによってコントロールできます。高ホモシステインレベルと腎臓の機能低下という悪循環もある程度はコントロール可能です。ホモシステインの代謝過程に関わっている重要な酵素や補助因子となるビタミン (B6B12、コリン、葉酸) はよく知られています。ホモシステインレベルを上げる条件もよく知られています。腎不全、コーチゾル、低エストロゲンと低プロゲステロン、重要な酵素の遺伝性欠乏が主なものです。つまり、組織の劣化過程をスローダウンする方法はわかっているのです。
ビスフォスフォネート系の骨吸収阻害薬が骨量を増加するにもかかわらず骨折の防止に役立たない理由の一つは、コラーゲン架橋が劣化するからです。
もう一つの理由は、ビスフォスフォネート系の骨吸収阻害薬は骨代謝を抑制し過ぎるからです。骨の石灰化は2段階で進行します。最初の石灰化は新しいコラーゲンマトリックスができたときに急速に進行し、最大石灰化の50% 60%に達します。第二段階では、残りの石灰化が数年掛けてゆっくり進行します。骨吸収が速過ぎると、骨組織は石灰化が完了する前に吸収され、石灰化が完了していない骨組織が増えます。骨吸収がゆっくりし過ぎると、骨組織の石灰化が進み過ぎてもろくなった古い骨組織が増えます。したがって、骨吸収と石灰化速度のバランスが重要なわけです。このバランスはビスフォスフォネート系の骨吸収阻害剤よりはエストロゲンの方が達成しやすいのです (Microdamage accumulation in the monkey vertebra does not occur when bone turnover is suppressed by 50% or less with estrogen or raloxifene. Jiliang Li, Masahiko Sato, Chris Jerome, Charles H Turner, Zaifeng Fan, David B Burr 2005).
骨質とコラーゲン架橋についての研究論文は下記のようにたくさんあります。
ホモシステインとホルモン
ホルモンのホモシステインレベルに対する影響
ホモシステインレベルとホルモンとの関係は、ホモシステインレベルと更年期、心血管疾病、性差との関係がかなり前から研究され確認されていたので、ホモシステインレベルの骨粗鬆症に対する影響が明らかになる前から知られていました(Urinary pentosidine and plasma homocysteine levels at baseline predict future fractures in osteoporosis patients under bisphosphonate treatment. Masataka Shiraki, Tatsuhiko Kuroda, Yumiko Shiraki, Shiro Tanaka, Tsuyoshi Higuchi, Mitsuru Saito, 2011)。エストロゲンおよびエストロゲン+プロゲステロンがホモシステインレベルを低下させ (Hormone replacement therapy and plasma homocysteine levels. W M van Baal, R G Smolders, M J van der Mooren, T Teerlink, P Kenemans, 1999)、テストステロンがホモシステインレベルを上昇させる (Effects of sex steroids on plasma total homocysteine levels: a study in transsexual males and females. E J Giltay, E K Hoogeveen, J M Elbers, L J Gooren, H Asscheman, C D Stehouwer, 1998) ことはよく知られています。
動物実験では、ホモシステインレベルを上げるために卵巣摘出が行われます。しかし、ホモシステインの代謝の過程はよく知られていますが、その過程にホルモンが関係している様子はありません。ホルモンがどのように関与しているかについては、まだ完全には解明されていませんが、性ホルモンとホモシステインの関係は下流のメチオニンからホモシステインへの代謝過程ではなく、上流の筋肉の分解と再生過程にあると考えられます。つまり、テストステロンは筋肉の分解と再生を加速し、エストロゲンはそれを減速するのです。卵巣摘出がホモシステインレベルを上げるのは、エストロゲンの低下に加えて、ストレスホルモンの増加がたんぱく質の分解を加速することも見逃すことができません。
エストロゲンとテストステロンのこれらの作用は、性転換を経た男女でも確認されています。性転換のために大量のテストステロンを補充している女性ではホモシステインレベルが上昇しますが、逆にエストロゲンを補充している男性ではホモシステインレベルが低下します (Effects of sex steroids on plasma total homocysteine levels: a study in transsexual males and females. E J Giltay, E K Hoogeveen, J M Elbers, L J Gooren, H Asscheman, C D Stehouwer, 1998)
性ホルモンのホモシステインレベルに対する影響は明らかですが、たんぱく質の基礎代謝から発生するホモシステインの総量に比べれば、その量は微々たるものです (Factors explaining the difference of total homocysteine between men and women in the European Investigation Into Cancer and Nutrition Potsdam study. J Dierkes, A Jeckel, A Ambrosch, S Westphal, C Luley, H Boeing, 2001)。また、閉経後の骨粗鬆症患者では、ホモシステインレベルを左右する最も大きな要因は腎機能であると報告されています (Homocysteine levels and risk of hip fracture in postmenopausal women. Meryl S Leboff, Rupali Narweker, Andrea Lacroix, Lieling Wu, Rebecca Jackson, Jennifer Lee, Douglas C Bauer, Jane Cauley, Charles Kooperberg, Cora Lewis, Asha M Thomas, Steven Cummings, 2009)

ここでも、Provera (酢酸メドロキシプロゲステロン) などの疑似プロゲステロンが有害であることが示されています。疑似プロゲステロンを使ったホルモン補充では、骨量は維持されますが、ホモシステインレベルが下がらないのです。その理由はコーチゾルが増加するからです(酢酸メドロキシプロゲステロンにはコーチゾル様の作用があることも一因)。
骨シリーズ
  1. 骨の健康:更年期に何が起きるのか
  2. 骨を弱くする嘘きビスホスホネート系薬剤
  3. エストロゲン・パラドックス
  4. 骨の維持とプロゲステロンの役割
  5. ストレスホルモンが骨を破壊する
  6. 更年期のエストロゲン補充が骨に役立つ理由
  7. お粗末な天然プロゲステロン研究の現状
  8. 骨質も骨量と同じだけ重要 <<現在のページ
  9. 骨の健康を維持するための基本