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2014/12/12

更年期のエストロゲン補充が骨に役立つ理由

エストロゲンは中高年の女性の更年期障害の治療だけでなく、骨量の低下をスローダウンするためにも広く処方されてきました (Ultralow-dose micronized 17beta-estradiol and bone density and bone metabolism in older women: a randomized controlled trial. Karen M Prestwood, et. al. 2003)。一般には、女性ホルモン、特にエストロゲンを補充すれば骨量の急激な低下を抑制して骨粗鬆症を防止できるとされています。しかし、これは「骨とエストロゲン・パラドックス」で見たように、単純すぎる見方です。
閉経前の数年間は、生理が不順になり、生理が3~6か月間止まることもあり、その期間はプロゲステロンは分泌されません。エストロゲンはわずかしか分泌されない期間が続いたかと思うと、急に異常に高くなり、重い生理がくることもあります(ホルモンバランス:崩れの推移を参照)。閉経後の数年間はエストロゲンの分泌が生理を誘発するレベルに到達せず、最後には低いレベルに落ち着きます。この期間は更年期または更年期の移行期と呼ばれ、更年期障害が最も顕著になる期間です。骨量の低下がエストロゲンレベルの低下にのみ左右されているとすれば、移行期のエストロゲンレベルは、その後の低エストロゲンに落ち着いた後より高いので、骨量の低下は低レベルに落ち着いた後の方が加速するはずですが、実際はその逆になっています。つまり、この期間にはエストロゲンの骨吸収をスローダウンする作用を上回る破壊的な作用を持つ要因が働いていると考えられます(ストレスホルモンが骨を破壊するを参照)。
それでは、更年期になってエストロゲンを補充すれば、なぜ骨量の低下をスローダウンできるのでしょうか。それは、エストロゲンの骨に対する作用が更年期の骨を破壊する作用を上回るからといった単純なものではありません。

エストロゲンと更年期障害

エストロゲンの最も明白な作用は、ホットフラッシュなどの更年期障害の除去にあります。更年期障害が除去されれば、それに伴う高レベルのコーチゾル、アドレナリン、ノルアドレナリンを避けることができます。「Menopausal Symptoms And Underlying Mechanism」で見たように、エストロゲンは副交感神経系を強化して、エストロゲン禁断症状ともいえる更年期特有の交感神経系の緊張状態を緩和します。
安全なホルモン補充が、経皮の超低量エストラジオール+経皮の天然(本物の)プロゲステロンであることは別のところで説明しましたが、ホルモン補充によって更年期症状を取り除くと、ストレスホルモン(コーチゾル、アドレナリン、ノルアドレナリン)のレベルも下がります。多くの場合、ホットフラッシュなどの更年期障害の症状はエストラジオールだけで取り除くことができますが、「安全なホルモン補充:確かな証拠」で見たように、エストロゲンの単独補充は安全ではありません。人によっては、プロゲステロンの補充のみで更年期障害を取り除くことができますから、その点だけを取ってもプロゲステロンはコーチゾルを減少することができるといえますが、プロゲステロンは本来、コーチゾルの作用を直接抑制する作用を持っていることが知られています(疑似プロゲステロンの酢酸メドロキシプロゲステロンでさえ、ステロイドによる骨粗鬆症を低減させることができることが観察されているEffective therapy of glucocorticoid-induced osteoporosiswith medroxyprogesterone acetate. E O Grecu, A Weinshelbaum, R Simmons 1990)

血行に対する酸化窒素 (NO) の作用と骨への影響

エストロゲンのNO生成を促進する作用は、その血流を増加させる作用を介して骨形成の重要な要因になっているといえます。
更年期障害と心血管系の病気」で見たように、エストロゲンもプロゲステロンも心血管系と血行に深く関わっています。血管を拡張する作用を持つNOの生成を促進することによって、エストロゲンは血液が必要なときに必要な場所へ運ばれるようにするメカニズムに直接関与しています。NO生成が十分でないために骨髄への血行が低下すると、健康な骨の維持が難しくなります。MRI画像を使って骨髄への血液供給を調べた研究では、骨密度の低下と骨髄への血流低下が並行して発生していることが観察されています。さらに血流の低下に伴って骨髄の脂肪領域が拡張し、新しい血球細胞を生成する領域が狭くなるのが観察されています。つまり、血流が減少するだけでなく、造血能力も低下します。
血流の減少によって酸素の供給が減少すると、破骨細胞になる単核細胞が多くなります。

エストロゲンと血管新生

エストロゲンは血管の新生を促進することが知られています。エストロゲンの低下は小血管の新生を阻害することによって血液供給を低下させます。

コーチゾルとノルアドレナリンの血管収縮作用

コーチゾルもノルアドレナリン(交感神経系の伝達物質)も心拍を増加すると共に血管を収縮し血圧を上げ骨格筋への血液供給量を増加します。これは生理機能を「闘争や逃走」に適した状態にするための一環として行われますが、これらのホルモンが慢性的に高いと、安静時にも同様の状態が継続して、休息と修復を促進する副交感神経系の作用を妨げます。「ストレスホルモンが骨を破壊する」でコーチゾルの分解作用を見ましたが、骨の健康に血液の供給が重要だとすれば、コーチゾルはその点でも有害です。慢性的な高レベルのコーチゾルは血管を直接収縮させるだけでなく、血管のノルアドレナリンに対する感受性を高め、その結果として血管収縮が増幅される一方、副交感神経系のアセチルコリン性血管拡張の邪魔をします。
更年期障害を特徴付ける高コーチゾルと高ノルアドレナリン(交感神経系の緊張)、副交感神経系の活動低下(Menopausal Symptoms And Underlying Mechanism を参照)は、慢性の血管収縮(高血圧)をもたらし、それに伴う血液供給能力の低下は骨も含めて体のあらゆる部分の退化と老化を加速します。更年期障害で苦しんでいる間は、自前のエストロゲンが提供する保護的な作用よりも更年期障害の破壊的な作用の方が健康に対する影響が大きいといえます。つまり、このとき最も重要なことは更年期障害を避けるための工夫をすることです。その最も手軽で確実安全な方法については、以下のページを参照してください。

骨シリーズ

  1. 骨の健康:更年期に何が起きるのか
  2. 骨を弱くする嘘つきビスホスホネート系薬剤
  3. エストロゲン・パラドックス
  4. 骨の維持とプロゲステロンの役割
  5. ストレスホルモンが骨を破壊する
  6. 更年期のエストロゲン補充が骨に役立つ理由 <<現在のページ
  7. お粗末な天然プロゲステロン研究の現状
  8. 骨質も骨量と同じだけ重要
  9. 骨の健康を維持するための基本

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