ページ

2022/07/23

黄体ホルモン補充の基礎と経験的治療

ストレス下で発生する黄体機能不全は、明確な自覚症状がなく、気付かれずに長い歳月が過ぎていく場合が多い健康問題です。問題に気が付くことがあっても、生理痛や重い生理、月経前症候群、今一つ体調が思わしくない等々、周期的な一過性の症状を、女性特有の避けがたい問題と考えて、放置している人、痛み止めなど対症療法的なアプローチで済ませる人も多いと思います。

不妊のように、治療すれば何とか解決できるかもしれないと考えられている症状の場合は、とりあえず、経験的治療として、黄体ホルモン補充を試してみるアプローチの効果がヒトの臨床実験でも家畜でも検証されています。

経験的治療という言葉を初めて聞いたという人もいると思いますが、経験的治療というのは、100%確実な診断ができない場合に、とりあえず、疑われる病気があれば、その治療をしてみるということです。その治療が効果があれば、疑われた病気が正しい診断だったということになります。その治療が安全で安価なばあい、試してみない理由はないわけです。

黄体機能不全は、実験では月経周期全体にわたって毎日ホルモン検査をすることによって確認します。しかし、臨床の現場では、黄体機能不全が疑われる場合でも、1度や2度のホルモン検査では確実な診断ができないため、経験的治療として、黄体ホルモン補充が使用されます。経験的治療が可能なのは、黄体ホルモン(プロゲステロン)クリームを使った黄体ホルモン補充の安全性が非常に高いのと、手軽に購入できる値段だからです。

前置きは、このくらいにして、

今回は、黄体ホルモン・クリーム使用の基本について説明したいと思います。

High prevalence of subtle and severe menstrual disturbances in exercising women: 
confirmation using daily hormone measures, M.J. De Souza, et. al., 
Human Reproduction, Vol.25, No.2 pp. 491–503, 2010


上のグラフは、以前の動画でも見ましたが、正常な月経周期でのホルモンの上がり下がりと、黄体機能不全と呼ばれる状態での月経周期の違いを示しています。上半分の2つのグラフは、正常なホルモンのパターンです。左下のグラフは、黄体機能不全、右下のグラフは、無排卵月経のパターンです。主要な違いは、黄体期に分泌される黄体ホルモンの量です。黄体ホルモンが不足するのが問題なわけですから、その不足分を補うのが黄体ホルモン補充の目的です。したがって、いつ、何を、どれくらいという疑問に対する答えは明らかですね。

青色の区間が黄体ホルモンを補充する14日間


いつから、黄体ホルモンが上昇し始めるかというと、排卵との関係で見ると、このグラフでは、ゼロとあるのが排卵日ですが、黄体ホルモンはその2、3日前から上昇し始めます。これを生理の開始の日を1日目として数えると、28日周期では、12日目からになります。

いつまで続けるかというと、正常の周期で明らかに黄体ホルモン・レベルが落ちる時点、生理の始まる3日前まで使用して停止します。28日周期では、12日目から26日目までということになります。

逆に計算することもできます。黄体ホルモンは生理開始の2、3日前から低下し始めます。したがって、生理開始の3日前を最後の日にして、14日間黄体ホルモンを補充するにはいつから始めるかを逆算します。これは、ホルモンの急激な低下が生理を誘発する作用があると考えられているからです。このタイミングは、生理の始まる前兆として、体調の変化を感じるタイミングに一致します。

私の場合は、黄体期の後半に悪化する便秘が改善すると、その2日後に生理が始まることに気が付いていました。若いときには気付いていなかったので、ヒトによってははっきりした体調の変化を感じない人も多いかもしれませんね。もう一つ気が付いたことは、同じタイミングで、一回だけ、尿に独特の芳香が混ざることでしたが、その原因については、残念ながらまったくわかりません。

何を使って黄体ホルモンを補充するかというと、クリームにしたものを肌に刷り込むのが最も安全で安定した方法であるというのが、一般に受け入れられている考えです。具体的には、60ml当たりの黄体ホルモン含有量が約1000mgのクリームを使うのが標準です。

どのくらい補充するかは、黄体ホルモンの一日の分泌量に匹敵する量、30㎎前後ということになります。60ml当たりの黄体ホルモン含有量が約1000mgのクリームの場合、小さじ1/8が10㎎、1/4が20㎎、1/2が40㎎になります。

私は、普段は一々小さじを使って測ったりしません。小さじ1/8の目安としては、小粒の豆粒ほどの量を絞り出ます。

無排卵月経のように、黄体ホルモン分泌がゼロになっている場合は、黄体ホルモン不足を解消するために、始めの2か月ほどは、1日30㎎から40㎎補充することもできます。

朝1回、夜1回、皮膚に刷り込みます。一日2回というのは、15時間で、皮膚に刷り込んだ黄体ホルモンが吸収されて、体内を巡回し、元のレベルの近くまで落ちるからです。

皮膚に刷り込むと、毛細血管を介して全身にはこばれますが、一部は皮下脂肪に吸収され、そこから徐々に毛細血管を介して全身に運ばれます。したがって、毎回正確に一定量を皮膚に刷り込む必要はありません。

身近な例として、娘が初めて黄体ホルモン・クリームを使った時のことをお話ししたいと思います。以下は、その時に書いてもらった体験談です。

生理痛がなくなりました!

私は薬草とかビタミンとかホルモンとか奇跡とかによる治癒はあまり信じないことにしています。それで、母がサプリ製品を次から次へと送ってくるようになったときも、無視して手を付けずにいました。プロゲステロン・クリームを使うようになったのはほんの偶然で、いつも顔に使っていたローションが切れてしまったからでした。ローションを買いに行くのが面倒だったので、ドレッサーの上で場所を取っていたプロゲステロン・クリームを使ってみることにしたのです。

1日に一回豆粒大のプロゲステロン・クリームを顔に塗りましたが、次の生理が始まるまではそれが黄体ホルモン・クリームだと言うことも忘れていました。私は高校時代から生理痛に悩まされていたのですが、それが全くなく、出血も塊りが少なくスムーズになっていました。次の月はプロゲステロン・クリームを時々しか使わなかったのですが、やはり生理痛は全くありませんでした。

それからしばらく使わずにいたら、また生理痛が戻ってきたので、今度は試しに生理中にプロゲステロン・クリームを使ってみたら、痛みを和らげることができました。

プロゲステロン・クリームを使った時に生理痛がなくなったのは偶然かも知れないとも思ったのですが、どうやら偶然ではなかったようです。

―大学生、18歳 

 






0 件のコメント:

コメントを投稿