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2016/01/30

安全なホルモン補充: 確かな証拠





「本当に安全なの?」というのが、今日多くの人々がホルモン補充について持つ大きな疑問のようですが、この問題は、とうの昔に決着がついているというのが私の判断です。What Your Doctor May Not Tell You About Breast Cancer ([医者も知らない乳がんとホルモン療法] John R. Lee, M.D. David Zava, Ph.D, Virginia Hopkins, 2002)、では、エストロゲンは「生の天使であり死の天使でもある」と説明されています。生の天使というのは、エストロゲンの細胞増殖と成長を促進する作用に注目したもので、その最も身近な例は女性が毎月経験する、妊娠に備えた子宮内膜の増殖です。死の天使と言うのは、プロゲステロンによる抑制が十分でないと、エストロゲンは暴走して、がん細胞の発生と増殖、血栓、血管痙攣、その他もろもろのリスクを高くするように働くからです。本物のプロゲステロンのこの保護的な役割を、危険な副作用を持つ疑似プロゲステロン(何種類もある)の作用と混同してはいけません。その一つであるmedroxyprogesterone acetate (メドロキシプロゲステロン酢酸:製品名はプロベラ、ヒストンなど) はアメリカで行われた大規模な臨床実験 WHI Clinical Trials でその危険性が証明されていますが、他の疑似プロゲステロンも大同小異で、避妊用でもホルモン補充用でも、不妊治療用でも安全なものは一つもありません。

※日本語で「メドロキシプロゲステロン」を検索すると、乳がんなどの原因となることが知られているこの擬似プロゲステロンが抗剤として大手を振って処方されていることがわかり、日本の医学製薬業界の腐りきった体質にいまさらながら驚愕しています。副作用なしで抗癌作用を期待できるホルモンは本物のプロゲステロンのみです。
本物のプロゲステロンとエストロゲンのバランスの取れた組み合わせが安全で効果的であることは、ちょっと考えてみれば想像がつくことですが、それを証明しようとした大規模な研究は存在しません。しかし幸いにも、これまでに広く使用されてきた各種のホルモン補充形態の安全性を比較した大規模なアンケート調査 (French E3N cohort study series) がフランスで行われています。重要なことは、本物のプロゲステロンとエストロゲンを組み合わせたホルモン補充の長期使用データを扱った大規模な研究はこれしかないということです。これまでに、乳がんリスク、血栓リスク、喘息発病リスクについてのレポートが出ていますが、そのすべてで、経皮エストラジオールと本物のプロゲステロンの組み合わせが、経口エストロゲンや疑似プロゲステロンを使った組み合わせ、あるいはエストロゲン単独使用よりも安全であり、ホルモン補充をしない場合に比べても、乳がんリスク、血栓リスク、喘息リスクが上昇しないという結果が報告されています。以下はE3Nのレポートと血栓リスクの研究です。
フランスで行われたE3Nスタディシリーズでは、経皮エストラジオールと本物のプロゲステロンの組み合わせがエストロゲン単独療法より安全であることが示されていますが、同じことは、自前のホルモンのバランスが崩れたときにも当てはまります。プロゲステロンが低下してエストラジオールその他のエストロゲン成分が相対的に高くなった状態を、「エストロゲン優位」と呼びますが、閉経前のほぼ10年間、40代に多くの女性がさまざまの健康問題に遭遇するのは、この状態が主な原因である場合が多いと言われています (ホルモンバランス:崩れの推移ホルモンバランス:崩れのパターンEstrogen dominance: it's not just a theory を参照)
プロゲステロンが低下するとリスク要因になるのは、エストロゲンのみではありません。DHEA、アンドロステンジオン、テストステロンも低プロゲステロン下では健康上のリスク要因になります。いずれも容易に体内でエストロゲンに変換されるホルモンであり、閉経以前閉経以後の乳がんリスクの調査で、この状態のリスクを示した研究があります。
プロゲステロンの保護的な役割は、乳がん、血栓、喘息発病に対してだけではありません、1993年に生物学者でプロゲステロンオイルの開発者でもある Ray Peat 博士が一般読者向けに出版した小冊子『Progesterone in Orthomolecular Medicine』には、受精卵から高齢者まで広範囲にわたってプロゲステロンが保護的な役割を担っていると説明されています。以下がその主なものです。
  • 多様な急性中毒を予防
  • 先天性奇形を減少
  • 子宮、乳房、腎臓の癌リスクを低減
  • てんかん、習慣性流産、自己免疫疾患を減少
  • 心臓と血管の平滑筋の痙攣を抑制
  • 過剰なエストロゲンとコーチゾルを中和
  • 代謝効率を向上
  • 低酸素症を解決
  • 浮腫の軽減
  • 液圧を正常化(滑液包炎、緑内障、軟骨膨張、その他)
  • 胎児の脳の発達と知能に影響
  • 細胞内へマグネシウムを取り込み、カルシウムの取り込みをブロック:これは、血栓、血糖値の安定性、腎臓の利尿機能、ヒスタミン放出の制御、食作用その他の免疫機能、グルカゴン、インシュリン、血管痙攣、血管緊張、神経の安定化(過剰な興奮、痙攣発作、てんかん、睡眠時無呼吸などを抑える)、細胞を毒や興奮性毒素による死亡から守る、などに重要な関わりを持つ機能です。
エストラジオールとプロゲステロンを始めとする各種の性腺ホルモン、あるいはそれと「化学構造が同一」の合成天然ホルモン剤が、女性の健康にも男性の健康にも重要な役割を果たすという Ray Peat博士の観察と結論は、何千もの研究によって確認されています。下のリストは、神経科学の分野に限定して選んだもので、ホルモンの保護的役割を示す研究のごく一部に過ぎません。このような研究が一般の人々の目に止まる形で報道されることは、ほとんどないようですが、研究は山のようにあります。しかし、それを実際に女性のあるいは男性のホルモン補充療法に応用した臨床研究となると、驚くほど少ないのが現状です。もちろん、私も含めて、本物のプロゲステロンがスキンクリームとして市販されていることを学ぶ機会に恵まれた人々は、臨床研究や医者の知識が動物実験や細胞実験で確立された知識に追いつくのを待ったりはしません。

無駄に費やされた大規模な臨床テスト
WHI Clinical Trials は、1990年代から2000年代の初めにかけてアメリカで行われた長期間にわたる大規模の更年期ホルモン療法の臨床実験でした。更年期ホルモン療法に関するさまざまの問いに答えるに十分なだけのデータを蓄積できる規模の臨床実験でしたが、残念ながら、使用されたホルモン製品は、既に治験なしで更年期の標準ホルモン療法として確立されていた、特定会社の特定製品 (Premarin + Provera) のみでした。しかも既に危険な副作用があることが知られていた製品だった上に、計画された終了期限に達する前に、リスクがベネフィットを上回るので中止するという中間報告が2002年に出て、アメリカの製薬業界と医学会の闇を露呈する臨床実験になってしまいました。何せ既に標準ホルモン療法として確立され、大多数の医者が処方していたホルモン製品でしたから、この中間報告の発表は大きな波紋を呼びました。医者も消費者も、代わりに安全で有効な更年期障害への対処法があるのかどうかわからないまま混乱に陥り、更年期障害に苦しんだ方がましだと考えて、ホルモン療法をあきらめる人も少なくありませんでした。研究者たちも、副作用を避けることができないとわかっていた製品からの大量のデータを前にして、更年期の始めの5年間なら安全だという、プロパガンダでしかない、根拠のない仮説を追いかけて、将来性のない間違った方向に研究を進めたのです (人体同一天然ホルモン: 医者が無知な理由、および The Hormone War is Heating Up を参照)
既にフランスで行われた大規模のアンケート調査、E3Nコーホート・スタディ・シリーズが明らかにしたように、安全なホルモン補充方法は1つしかないのです。つまり、化学構造がヒトのホルモンと同じホルモン剤以外にはありえないのです(天然ホルモンとか人体同一ホルモンとか呼ばれています、そうでない疑似ホルモン剤もたくさん出回っています)。ただし、気を付けなければならないのは、その投与量と投与形態です。
エストロゲンについては極少量で効果がある経皮エストラジオール以外は安全ではないという研究が確立しています。さらに、上で見たように、経皮エストラジオールでも天然プロゲステロンと組み合わせなければ安全ではないということも確立しています。ただし、天然プロゲステロンの投与量と投与方法については、残念ながら大手の製薬会社が製品化しているのは疑似プロゲステロン、投与量の著しく高い経口の天然プロゲステロンカプセルおよび膣座薬だけなので、手軽に使用できるスキンクリームやオイルなどの投与形態を使った研究や臨床事例は完全に無視されるか、詭弁によってその効力の証明が攻撃され、医者も消費者もいまだに、何を信じていいのかわからない状態が続いています(人体同一天然ホルモン: 医者が無知な理由を参照)。子宮を守るために生理を誘発する必要があるかどうかについても、大多数の医者と消費者は知らないままです。
詳しいことは「ホルモン補充療法: Dos Don'ts」と「ホルモンレベル:過多と過少の見分け方」に書きましたが、効果と安全性と使いやすさの観点から多くの女性の支持を得ている更年期のホルモン補充方法は、経皮(張り薬)エストラジオール(10.025 ~ 0.05mg)+経皮(スキンクリーム) 天然プロゲステロン(110 ~ 40 mg)を並行して使用する方法です。プロゲステロンを周期後半の2週間だけ使用するいわゆるサイクル方式は元々、子宮を内膜の増殖から保護するために生理を誘発するのが目的でしたが、両方のホルモンを同時に並行して使用すれば、子宮内膜が肥厚しないので生理を誘発する必要がないことも知られています。
補足: フランスの E3N アンケート調査で見られた天然プロゲステロンの投与形態と投与量は主に製薬会社が製品として提供してきた微粒子化プロゲステロン 100mg のカプセル(経皮エストラジオール10.05mg との組み合わせ)でした。これは医者が最も頻繁に処方する天然プロゲステロンであり、さまざまの臨床研究でも頻繁に使用されてきたものですが、「ホルモンレベル:過多と過少の見分け方」で説明したように、私も含めて多くの女性がその副作用に苦しみ、使用をあきらめてしまう天然プロゲステロン製品です。E3N のレポートにはホルモン補充の副作用については報告がないのでどんな人がどのような状況で使用していたのかわかりませんが、微粒子化プロゲステロン 100mg のカプセルは一度飲んだだけで、その副作用を観察することができる量です。プロゲステロンは適量なら利尿作用がありますが、多すぎるとその反対にむくみを誘発します。また、プロゲステロンとその代謝物には鎮静作用があるので、適量なら頭の中が静かになって気分が落ち着きますが、多すぎると体も頭も働かなくなり元気も出ません。
100mgを超えるプロゲステロンを使用した臨床研究の例
というわけで、残念ながら多くの臨床研究は適切なホルモン補充量や補充形態の効果を理解するにはあまり役に立たないのが現状です。
結果が大きなインパクトを持つ大規模な臨床実験を計画する人々の責任
Premarin Proveraを使ったWHI Clinical Trialsの大規模臨床実験であれほど明確に否定的な結果が出たことは、医者や消費者だけでなく、それが標準ホルモン療法として確立されたと思っていた研究者や製薬会社にとってもショッキングな結果だったかもしれません。しかし、このいわゆる標準ホルモン療法に異議を唱え警鐘を鳴らしていた研究者や医者も少数ながら存在していました。あの実験で使用されたエストロゲン(Premarin)と疑似プロゲステロン(Provera=メドロキシプロゲステロン酢酸)の副作用については早くから知られていたので知らなかったという言い訳は通りません。あの臨床実験が正式に発足したのは1991年で、患者の募集が始まったのは1993年でしたが、危険な血栓リスクがあることが明らかになったのは30年以上前の1961年でした (Estrogens, progestogens and thrombosis, F . R. Rosendaal, at. al. 2003を参照)。メドロキシプロゲステロン酢酸は長年避妊薬として使用されてきた歴史があり、長い副作用のリストが付いています。その血栓リスクについては1967年にイギリスで研究報告が発表されています (Records Unit and Research Advisory Service of the Royal College of General Practitioners. Oral contraception and thromboembolic disease. J R Coll General Pract 1967)。しかも、プロゲステロン補充の他のオプションに関して言えば、1984年には肝臓のたんぱく質とコレステロールの値から天然プロゲステロンの方が優れていることが示されています (Oral progesterone and estrogen/progestogen therapy. Effects of natural and synthetic hormones on subfractions of HDL cholesterol and liver proteins. U B Ottosson 1984)
このような歴史を見ると、あのような臨床実験が計画された背景には、治験なしで標準ホルモン療法として大手を振って歩いていた製品の安全性を確認する必要があったことがわかります。始めから実験を中止するためのリスクとベネフィットの比率を設定していたのもそのためなのでしょう。しかし、危険性・安全性を証明することが目的なら、あれほど大勢の女性を長期間にわたって危険にさらす必要はなかったはずであり、大規模な臨床実験なら、別のホルモン療法についてのデータも集めることができたはずなのに、なぜただ一つの製品に限定されたのか疑問が残ります。
長期間にわたる大規模の臨床治験は本当に必要か
今日の臨床検査における科学技術の進歩を利用すれば、長年かけて副作用が何らかの診断可能な病気として顕在化するはるか以前に、薬のリスクとベネフィットを評価できます。つまり、治療の副作用を調べるために、患者が病気になるまで続けるなどという野蛮なことをする必要はないのです。病気の発生につながる生理化学的な変化を指標あるいはマーカーとして検出する技術があるのです。たとえば、骨粗鬆症リスクを知りたければ、骨の溶解と再生過程で発生する特有の物質を調べることができます。血栓リスクもCタンパク質、繊維素原、コレステロールなどの増加から知ることができます。乳がんの発生過程で起きる血管増殖のパターンは赤外線カメラによる胸部の写真から検出できます。従来の薬の治験方法では、膨大な費用と時間がかかり、せっかくの薬も長年日の目を見ることができないばかりでなく、巨大な製薬会社以外は、手を出せなくなっています。そろそろ、もっとスマートな治験方法を考えるべきときが来ているのではないかと思います。