更年期障害で苦しんでいる女性から寄せられる相談では、医者に処方してもらったホルモン補充の副作用と更年期障害のどちらをとるべきか悩んだ末の相談が少なくありません。基本は単純で、体調や気分がよくならなければ、間違ったホルモン補充をしていると考えていいと思います。多くの場合、処方されたホルモン量がとんでもない過剰投与になっています。エストロゲン過剰の場合、プロゲステロン過剰の場合、両方とも過剰な場合があります(疑似ホルモンの使用は医療過誤であり、問題外です)。
「53歳です。5ヶ月ほど前からホットフラッシュと気分の変動を抑えるために張り薬の Vivelle .025 を使ってきました。気分爽快でした。でも医者は子宮を保護するために6ヶ月に12日間プロゲステロンを飲む必要があると言って、Prometrium 100 mg を処方してくれました。言われたとおりに飲んだら、アレルギー反応かと思うような副作用が出て、顔と目が赤くなってむくみ、二日目には出血と腹痛。その後はPrometriumを飲みませんでしたが、出血がその後一週間続きました。ひどい頭痛も続きました。」というのは2009年6月に寄せられた相談です。
これは残念ながら、典型的なケースです。たいていの医者は、一日20~30mg のプロゲステロンを超微量(1日 0.025~0.050mg)のエストラジオールと平行して毎日使用すれば更年期障害を抑え子宮内膜の肥厚も抑えることができるということを知らないので、大量のホルモン剤を投与して生理を誘発しようとします(ホルモン補充療法: Dos と Don'ts を参照)。
2011年の11月には「5年前に子宮の全摘出手術を受けました。以来いろいろ試しましたがいまだに満足いくホルモン療法に出会っていません。医者はエストラジオール 1mg の錠剤を処方してくれましたが、いつもちょっとしたことで泣き出してしまいそうな感じです。それでプロゲステロンクリームも取り入れてみましたが、2週間で3.5 kg も太りました。朝には不安感に襲われ、奇妙な夢も見ます。もう何年も性欲を感じたことがありません。夫もかわいそうです。」
3ヵ月後には、「3つのホルモンすべてで教えていただいた量を使いました。私にぴったりです。しょっちゅう泣き出しそうになることもなくなり、性欲も戻りました。本当にありがとうございました。4年間で3人の医者にかかりましたが、一人も正しい処方をしてくれませんでした。」というメールをいただきました。
この2つの例から読み取るべき重要なことは
1. 大多数の医者は、いい加減なホルモン補充でお茶を濁しているか、間違った考えを持っている。
2. 1日 0.025~0.050mg という超低量のエストラジオール張り薬でも更年期障害の症状を抑える効果がある。ただし、プロゲステロンと平行して使用しないと子宮内膜の肥厚が進行する。
3. Prometrium 100 mg (カプセル入りの飲み薬) のような高い投与量のプロゲステロンには過剰投与の問題がある (むくみ、元気が出ない、等々)。大多数の女性がその副作用で苦むようです。実は、私も一度試したことがあるのですが、起きているのがつらいほど、気分が悪くなり2日で止めました。研究報告から見る限り、Prometrium 100 mg は最も頻繁に処方される天然プロゲステロンですから、多くの女性がその副作用に苦しんだあげく、危険であることが知られているエストロゲン単独療法で、避けることのできる健康リスクに身をさらしたり、ホルモン療法をあきらめて、更年期障害とホルモン不足に伴う健康リスクを取ったりする羽目になっています。
4. エストロゲンの過剰投与にプロゲステロンを追加すると、症状が悪化する可能性がある。これは、プロゲステロンがエストロゲン受容体を増加させ、エストロゲンの作用が強くなるからです。ホルモン補充を始めるときは、プロゲステロンから始めて、少し後で超低量のエストラジオールを追加し、それで十分かどうかを判断する必要があるのはそのためです。
ホルモンが多過ぎるか少な過ぎるかの判断の手掛り
今日の医学では、補充したホルモンがどのような経路でどこに運ばれどのように使用されるのかは完全にはわかっていないので、ホルモンの補充が多すぎるか少なすぎるかを調べるテストはありません。したがって、自分の体がどう感じるかが一番確かな手掛りです。
エストロゲン不足: 長期的には、膣の乾きと萎縮が一番確かな手掛りです。プロゲステロンはエストロゲンの働きを助けますが、エストロゲンが不足していると、いくらプロゲステロンがあっても役に立たないというのが、私の経験です。一般には、ホットフラッシュ=更年期=低エストロゲンと考えられているようですが、ホットフラッシュは生理の誘発に十分な量のエストラジオールが分泌されているときにも出る場合があります。不定愁訴や頭のモヤモヤなども更年期によく見られる症状ですが、低エストロゲンに慣れるとそのうちこれらの症状を感じなくなる場合もあります。さらにホットフラッシュや発汗、頭のモヤモヤなどは他の病気でも見られる症状です。臨床では、血流依存性内皮依存性血管拡張 (オンデマンドの血液供給) がエストロゲンが不足していると弱くなることが知られています。血液供給能力の低下は体全体に影響します (更年期障害と心血管系の病気、更年期のエストロゲン補充が骨に役立つ理由を参照)。
プロゲステロン過剰: 上で紹介したケースでも指摘しましたが、プロゲステロンを補充した結果、気分や体調が悪くなった (むくみや水分貯留に関係した症状、眠い、元気が出ない、疲労感) というのは、間違いなくプロゲステロンの過剰投与です。通常は1日10~40mg が安全で効果のある量です。100mg は多すぎます。
- プロゲステロンの水分貯留に対する作用と投与量との関係は2相性であることが知られています。つまり、量を増やせば同じ作用が強く出るのではなく、別の作用(この場合は逆の作用)が出ます。生理的に適切な量(1日10 ~ 40 mg) の範囲内では、ミネラルコルチコイドをブロックすることによって利尿を促進します (Pharmacological and functional characterization of human mineralocorticoid and glucocorticoid receptor ligands. R Rupprecht, J M Reul, B van Steensel, D Spengler, M Soder, B Berning, F Holsboer, K Damm, 1993) が、その範囲を超えると、デオキシコルチコステロンという強力なミネラルコルチコイドを増加させるので、逆に水分貯留・むくみが起きます。これは 100mg のプロゲステロン投与によって確認できる現象です (Serum levels of progesterone and some of its metabolites including deoxycorticosterone after oral and parenteral administration. U B Ottoson, K Carlstrom, J E Damber, B von Schoultz, 1984)。この2相性は細胞内カルシウムイオンとマグネシウムイオンの比率に対する作用からも確認できます (Sex steroid hormones exert biphasic effects on cytosolic magnesium ions in cerebral vascular smooth muscle cells: possible relationships to migraine frequency in premenstrual syndromes and stroke incidence. W Li, T Zheng, B M Altura, B T Altura, 2001)。この影響は水分の貯留とカルシウムの溶出に留まりません(安全なホルモン補充:確かな証拠を参照)。このむくみはエストロゲンがtransmembrane conductance regulator (CFTR) を媒介して誘発する腹水 (Estrogen-Induced Abnormally High Cystic Fibrosis Transmembrane Conductance Regulator Expression Results in Ovarian Hyperstimulation Syndrome. Louis Chukwuemeka Ajonuma, et. al. 2005) とは同じではありません。
- プロゲステロンとその代謝物であるアロプレグナノロンは GABAa を介して鎮静剤として作用することが知られています。したがって、適切な量を適用すれば頭の中が静かになって気分が落ち着きますが、量が多すぎると、元気が出ず、精神機能も運動機能もスローダウンし、消化機能も滞ります。これも 100mg のプロゲステロン投与で確認されています(Administration of progesterone produces mild sedative-like effects in men and women. Anna H V Soderpalm, Sommer Lindsey, Robert H Purdy, Richard Hauger, Harriet de Wit, 2004; Effects of acute progesterone administration in healthy postmenopausal women and normally-cycling women. H de Wit, L Schmitt, R Purdy, R Hauger, 2001)。
プロゲステロン不足: 健康に対して重大な影響がある (安全なホルモン補充:確かな証拠を参考) にも関わらず、私たちの体にはプロゲステロン不足を確実に感知するメカニズムが備わっていないかのようですが、プロゲステロンの補充をしばらく休んでいるときに気がつくことの一つに、突発的な下痢があります。私の経験では、疲労やストレスが重なったとき、決まったように突発的な下痢がトリガーされ、お腹が空になるまで続きます。このとき、プロゲステロンクリームをおなかに刷り込むとほとんどすぐに収まります。
臨床的には、プロゲステロンが不足すると、エストロゲンの単独補給をしている場合は特に、血液の粘性が高くなる (血栓ができやすくなる) だけでなく、腸と同じように、血管や心臓も痙攣しやすくなって心臓発作のリスクが高くなります (更年期障害と心血管系の病気を参照)。子宮内膜が肥厚して、重い生理や子宮がんのリスクも高くなります。乳癌のリスクと喘息の発病リスクも高くなります。
髪の毛や皮膚の異常もプロゲステロン不足を示している場合があります。『What your Doctor May Not Tell You About Menopause』(John R. Lee, Virginia Hopkins, 1996) には、成人のにきび、脂漏、酒さ、乾癬、角化症などの皮膚疾患はプロゲステロン不足に関係していると指摘されています。個人的にも、80を超えるおばあさんの脛にできた角化症の尖った固いイボが、プロゲステロンクリームを直接適用することで消えたのを見たことがあります。私の首の周りにできた小さなポリープ状のブツブツもプロゲステロンクリームを直接適用することによって今のところ収まっています。薄くなった髪の毛もプロゲステロン不足を示している場合があります。プロゲステロン補給を始めて3~6ヶ月で、80を超えるおばあさんたちの薄くなった白髪の頭に白髪が密生し出したのを見たことがあります。
プロゲステロンの生理作用の多くは、プロゲステロンが細胞内にマグネシウムを取り込み余分なカルシウムを排除する、カルシウムブロッカーとしての作用に依存しています (PMS: 発生メカニズムと根本原因 を参照)。ですから、プロゲステロンの効果を最大限に引き出すには、マグネシウムが不足しないようにする必要があります。現代人の食生活では必要な量の半分、1日 300mg を補給する必要があると言われています。
エストロゲン過剰: エストロゲンは興奮剤の一種です。脳細胞を過剰に興奮させて壊死させる場合があるため、これを興奮性毒素と呼ぶ人もいるくらいです。脳だけでなく体全体を刺激し細胞の増殖も活発にします。脳が興奮しやすくなり、その分コンロトールが難しくなります。社会心理的なストレスに対するストレスホルモン応答が増幅されることを示す研究もあります。腹水その他のPMS様の症状も引き起こします。
- The effects of sex and hormonal status on restraint-stress-induced working memory impairment. Rebecca Shansky, Katya Rubinow, Avis Brennan, Amy Arnsten 2006
- Short-term estradiol treatment enhances pituitary-adrenal axis and sympathetic responses to psychosocial stress in healthy young men. C Kirschbaum, N Schommer, I Federenko, J Gaab, O Neumann, M Oellers, N Rohleder, A Untiedt, J Hanker, K M Pirke, D H Hellhammer 1996
- Impact of progestins on estradiol potentiation of the glutamate calcium response. Jon Nilsen, Roberta Diaz Brinton, 2002
臨床的には、プロゲステロンによる抑制が十分でないと、新しい細胞の増殖が活発になり過ぎ、子宮内膜の肥厚やがん細胞の発生・増殖が活発になります (What Your Doctor May Not Tell You About Breast Cancer, by John R. Lee, M.D. David Zava, Ph.D, and Virginia Hopkins, 2001)。血液の粘性が高くなり (血栓ができやすくなる) 、乳癌のリスクと喘息の発病リスクも高くなります (安全なホルモン補充:確かな証拠を参考)。
混同しやすいエストロゲン不足とエストロゲン過剰の症状
自然閉経を迎える女性は、ホルモン、特にエストロゲンの異常な上がり下がりに翻弄されます。生理が数ヶ月止まってエストロゲンが低下したと思ったら、エストロゲンが異常に高くなって重い生理が来るといったことが繰り返されます。生理があってもその大半は無排卵月経でプロゲステロンは分泌されず、プロゲステロン不足が進行します。このかく乱が閉経数年後に低ホルモン状態で安定するまで続くのが更年期であり、閉経前後の数年間は更年期障害が最も顕著に見られる期間です。
PDG = 尿中のプロゲステロン代謝物、E1G = 尿中のエストロゲン代謝物、横軸上の太線は経血の見られた日、赤線(月経周期の区切り)赤文字は筆者(Progesterone and ovulation across stages of the transition to menopause.Kathleen O'Connor, Rebecca Ferrell, Eleanor Brindle, Benjamin Trumble, Jane Shofer, Darryl Holman, Maxine Weinstein 2009 より)
低エストロゲンは、ストレスからの回復を制御する副交感神経系の働きを鈍くして、ストレス反応をつかさどる交感神経系の緊張が解けにくくなり、高エストロゲンは脳の興奮性を高くするので、低エストロゲンも高エストロゲンも似たような緊張とストレスへの過剰反応をもたらし、その対応にさらに神経が消耗することになります。燃え尽き症候群が出るのもこのころです。
この更年期を無事に乗り切るために最初にすべきことは、神経を休め、エストロゲン過多の健康リスクを避けるために、鎮静・抑制作用を持つプロゲステロンを補充することです。ただし、ここで一つ注意しなければならないことは、エストロゲンが異常に高いときにプロゲステロンの補充を始めると、症状が悪化しかねないことです。なぜかと言うと、プロゲステロンがエストロゲン受容体を増加してエストロゲンの作用を強くするからです。この問題の理にかなった解決方法は、エストロゲンが低いとき、つまり、生理の直後からプロゲステロンを始めることですが、生理が不順になってくると、そのタイミングがわからなくなるので、そのような場合は、極少量から始めて、様子を見ながら体を慣らしていく必要があるかも知れません。ホットフラッシュや頭のモヤモヤなどの更年期障害が出るようになったら、超低量(1日0.025mg)のエストラジオールの張り薬を追加します。更年期障害の症状を放置すると慢性的に高レベルのストレスホルモンを放置することになり、ストレスホルモンによる骨の分解、動脈硬化、糖尿病などが促進されますから、お勧めできません。ストレスホルモンを抑制するには DHEA の追加も役に立ちます。DHEA はエストロゲンとテストステロンの増加にも役立ちます。
DHEA 過多: 更年期からのDHEA で見たように、DHEA 過多になると肌や髪の毛のトラブルが発生するので、それが DHEA を補充するときの適量の目安となります。つまり、髪の毛が油っぽくなる、ニキビや吹き出物が出るなどは、量が多過ぎることを示しています。ほとんどの場合、1日5 ~ 10mg (飲み薬でも、塗り薬でも) が安全で効果的な量というのが経験に基づく私の結論です。One-year therapy with 10mg/day DHEA alone or in combination with HRT in postmenopausal women: Effects on hormonal milieu.(Nicola Pluchino, et. al. 2008) でもそういう結論に達しています。幸いなことに、DHEA はコーチゾルと違って長期間補充しても副腎の機能を弱めることがなく、逆に副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)に対する DHEA の分泌反応が向上するということなので、補充を始めてしばらくすると補充量を減らす必要があるかも知れません。
- さらに、次のページもご覧ください。
Menopausal symptoms: What are we complaining?
更年期障害と心血管系の病気
骨の健康:更年期に何が起きるのか
ホルモン補充療法: Dos と Don'ts
安全なホルモン補充: 確かな証拠
PMS: 発生メカニズムと根本原因
0 件のコメント:
コメントを投稿