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2014/11/13

更年期からのDHEA








2011年に出版されたレビュー Clinical review: DHEA replacement for postmenopausal women. (Davis SR, Panjari M, Stanczyk FZ)によると、Dehydroepiandrosterone (DHEA)とその硫酸エステル(DHEAS)は副腎から大量に分泌さるホルモンであり、脳内でも独自にDHEADHEAS (以下、合わせてDHEA/S)が生成されます。さらには、卵巣と睾丸でも、その他の組織でも生成されるとも言われています。DHEADHEASは一方から他方へと相互に変換され、テストステロンを含む男性ホルモン系のホルモンにも変換されます。男性ホルモンはさらにエストロゲンの一つであるエストロンからエストリオールへと変換されます。どの経路でどのホルモンに変換されるかはどの細胞にどの酵素があるかに依存します。つまり、DHEA/Sから派生するホルモンはそれを必要とする細胞で必要なホルモンに変換されると考えられます。

DHEA/Sと老化

血液中のDHEA/Sは老化と共に劇的に低下します(下のグラフを参照)。一方、同じ副腎ホルモンでも、いわゆるストレスホルモン系のホルモンであるコーチゾル=糖質コルチコイドやアルドステロン=ミネラルコルチコイドには老化に伴う低下は見られません。逆に、更年期障害の発現に伴ってストレスホルモンは上昇します(Pituitary hormones during the menopausal hot flash. D R Meldrum, et. al. 1999)DHEA/Sは脳内でも神経ステロイドの一部として生成され、脳脊髄液で測定すると、DHEA/Sの年齢による低下は見られないということです(Changes with aging of steroidal levels in the cerebrospinal fluid of women. K Murakami, et. al. 1999)。つまり、神経系にとって重要なホルモンであると考えられます。
図: Regulation of the adrenal androgen biosynthesis. Rainey WE, Nakamura Y. 2008 より

加齢に伴う急激な低下に注目して、DHEA/Sの低下が老化を促進し、老化に伴う疾患に関わっているのではないかという可能性についても研究されてきました(DHEA deficiency syndrome: a new term for old age? J P Hinson and P W Raven 1999)。しかし、DHEA/Sは個人差が大きいホルモンであるため、個々人のDHEA/Sのレベルを老化の指標として使うことはできないようです。
2003年に出たレビュー、Dehydroepiandrosterone - is the fountain of youth drying out?(Celec PStárka L) によると、癌、循環器系疾患、インシュリン抵抗、糖尿病、骨粗鬆症、その他の退化的疾患とDHEAの関係を測定すると明瞭な関係が見られないのに対し、ストレスホルモン(コーチゾル)DHEAとの比率を測定すると、退化的疾患の進行過程と密接に関係していることが明らかなるということです。つまり、DHEAはコーチゾルの破壊的作用から体を守る作用があるのではないかと考えられるわけです。

DHEA/Sの研究が進まない理由

残念ながら、このように抗老化作用が期待された割りには、DHEAの研究は進んでいないようです。Celec Stárka のレビューによるとDHEAの作用についての科学的な情報の確立が遅れている背景には2つの大きな理由があります。
1)        DHEA は人体内で分泌される物質なので特許を取れない。製薬会社はそのような物質に関連する分野の研究に興味がない。
2)        DHEA は「人間特有の分子」である。他の動物では非常に低いレベルでしか見られない物質であり、特にネズミやマウスなど動物実験の標準になっているげっ歯類はDHEAの実験に適さない。ヒト以外の霊長類でも、ヒトの1/10DHEAしか見られない。

DHEA補充の効果

これまでに蓄積されてきた研究からは、健康が優れないこととDHEAが低いこととの間には関係があるようだとは言えても、副腎から分泌されるDHEA/Sの欠乏が原因となって発生する病気は知られていません。ただし、全身性エリテマトーデスやリウマチ性関節炎などの結合組織の病気がDHEAの補充によって劇的に改善することはかなり前から知られています(The connective tissue diseases and the overall influence of gender. R G Lahita, 1996)
Celec Stárka DHEAの補充について、かなり用心深い姿勢を保っていますが、カナダのLaval University (F Labrie ) にはDHEAの補充を非常に熱心に提唱しているグループがいます。このグループはDHEAの代謝過程に注目し、Endocrinology(内分泌)と区別するためにIntracrinology (細胞内分泌)という用語まで造っています。彼らの意気込みは、「DHEAを男性ホルモンやエストロゲンに変換するための酵素はすべて抹消組織の個々の細胞に特有の方法で発現し、男性ホルモンやエストロゲンに感受性のある、つまりそれらのホルモンを必要とする細胞内で必要に応じて合成することを可能にしている。」活性状態のステロイドホルモンの合成は「それが作用する抹消組織の細胞内で行われ」、「細胞から出るときは既に不活性化されている」という理解に基づいています(DHEA and its transformation into androgens and estrogens in peripheral target tissues: intracrinology. 2001)。この理解に基づいて次のような提案が行われています。
1.          前立腺癌の治療の始めに、化学的去勢または外科的去勢を行うとき、睾丸からの男性ホルモンだけでなく副腎由来の男性ホルモンも同時にブロックするように抗男性ホルモン剤を組み合わせる。同様に、乳癌では、エストロゲンをブロックするためにアロマターゼ阻害剤や抗エストロゲン剤を使用する(Intracrinology: role of the family of 17 beta-hydroxysteroid dehydrogenases in human physiology and disease., F Labrie. et. al. 2000)
2.          活性ホルモンのレベルは血液内のそのホルモンのレベルを測定してもわからない。DHEAが変換されてできた活性エストロゲンや活性男性ホルモンを測定するには、血液内のその代謝物を測定する必要がある(Physiological changes in dehydroepiandrosterone are not reflected by serum levels of active androgens and estrogens but of their metabolites: intracrinology. Labrie F, et. al. 1997)
補足:DHEAから変換された男性ホルモンやエストロゲンが血液中に出ないと言うのは間違いである。この結論は14日間という短い期間で観察された結果に基づくもので、男性の場合は男性ホルモンが元々高いのでその期間にわずかに上昇しても検出できないだけのことである。女性の場合は男性ホルモンの上昇が検出されている。28日間の観察 (The effects of oral dehydroepiandrosterone on endocrine-metabolic parameters in postmenopausal women. J F Mortola, et. al. 1990) でも同様の結果が観察されているが、3ヶ月以上の長期間の観察では、テストステロン、DHT、その他を含む男性ホルモン、エストロゲンなど、DHEAから派生するホルモンの上昇が血液検査で確認されているLong-term low-dose dehydroepiandrosterone oral supplementation in early and late postmenopausal women modulates endocrine parameters and synthesis of neuroactive steroids. Alessandro D Genazzani, et. al. 2003).
3.          ホルモン療法におけるDHEA使用の奨励: 閉経後の女性を対象として行われた12ヶ月間の臨床実験によって、骨形成の刺激、膣組織の回復と維持、皮脂の増加、インシュリン抵抗の軽減、更年期障害の軽減が観察されたのに対し、子宮内膜の肥厚が起きないという結果を得ている(Effectof 12-month dehydroepiandrosterone replacement therapy on bone, vagina, and endometrium in postmenopausal women. Labrie F, et. al. 1997)。これらの観察はDHEAが変換されて男性ホルモン(皮脂の増加)、エストロゲン(膣組織の回復と維持)、などが該当組織で局所的に増加したけれども、全身的な影響は少ない(子宮内膜が肥厚しない)ことを示すと解釈された。

経皮エストラジオール+プロゲステロンのホルモン療法にDHEAを追加することの利点

Labrieのグループは、DHEA単独のホルモン療法または従来のホルモン療法(エストロゲン単独またはエストロゲン+疑似プロゲステロン)にDHEAを追加することの利点を強調しています(Is dehydroepiandrosterone a hormone? by F Labrie, et. al. 2005)。しかし、「DHEAをホルモン療法として使用することの利点は乳癌と子宮癌のリスクがないから」という評価は、残念ながら正しい評価ではありません。第一に、前立腺癌の治療に副腎由来の、つまりDHEA由来の男性ホルモンをブロックする必要があるという上記1番目の結論と矛盾しています。DHEAを男性ホルモンやエストロゲンに変換する細胞があるかぎりエストロゲンが関係する癌や血栓、痙攣のリスクは存在し、そのリスクを下げるホルモンとしては天然プロゲステロンしか知られていません(全なホルモン補充: 確かな証拠更年期障害と心血管系の病気を参照)。これは変換されたホルモンが血液中に出て全身に影響するかしないかという問題とは関係ありません。同様に、現在使用されている治療のほとんど全部が骨の空洞化を減少させるだけであるのに対し、DHEAはまれな例外であると主張する研究者がいますが、これは天然プロゲステロンを正しく使用した研究がまれであることを意味するに過ぎません(お粗末な天然プロゲステロン研究の現状および過剰なホルモン補充:その見分け方を参照)。そもそも、DHEA単独で更年期障害が消えるケースは少ないと思います。特に更年期障害が最も強くなる閉経前後の数年間は無理だと思います。第一、更年期障害に対する効き目(エストロゲンの上昇、ホットフラッシュの減少、コーチゾルの減少など)が現れるのに2 3ヶ月かかるので実用的ではありません(Six-month oral dehydroepiandrosterone supplementation in early and late postmenopause. M Stomati, et. at. 2000)
とはいえ、更年期の女性におけるDHEAおよび男性ホルモンと更年期障害の強さを調べた研究はDHEAもホルモン療法の一部として考慮されるべきことを示しています。Androgens and estrogens in relation to hot flushes during the menopausal transition. (Øverlie et al. 2002)では、「高レベルのテストステロンとDHEA-Sはホットフラッシュなどの症状に対して保護的に働くように思われる。最も重要な発見は、閉経後の最初の検診でホットフラッシュが出ていた女性の一年後の検診では、男性ホルモンのレベルが高いほどホットフラッシュから回復した人が多かった。」という結果を得ています。日本で行われた研究(Effect of Korean red ginseng on psychological functions in patients with severe climacteric syndromes. (T Tode, et. al., 1999) でも、更年期障害のある女性のDHEA-Sレベルは更年期障害のない女性の半分であったと報告されています(ちなみに、この研究の主眼である紅参=Red ginsengの更年期障害に対する作用は、DHEAレベルの上昇ではなく、コーチゾルの低下=コーチゾル対DHEAの比率の低下として現れるという結果になっています)。
さらに、SWAN (Study of Women’s Health Across the Nation, a longitudinal study of menopause 更年期女性の長期にわたる追跡調査) プロジェクトからの報告には、閉経して卵巣からホルモンが分泌されなくなると、DHEAの分泌が増加するという観察があります。
図:Circulating dehydroepiandrosterone sulfate concentrations during the menopausal transition. Crawford, et. al. 2009 より
閉経前後の数年間は更年期障害が最も強く現れるときであり、これらの観察はストレスが続くとDHEA/Sが増加する(Neurobiological and neuropsychiatric effects of dehydroepiandrosterone (DHEA) and DHEA sulfate (DHEAS). Maninger N, Wolkowitz OM, Reus VI, Epel ES, Mellon SH. Front Neuroendocrinol. 2009)という一般的な観察との関係で評価する必要があります。つまり、以上の研究を総合すると、更年期障害に対抗するために十分なだけDHEA/Sを増加できる人とできない人がいるということなのだと思います。
残念ながら、更年期障害を防止するのに十分なDHEA/Sの増加を達成できる女性は非常に少ないようです。90% 近くの女性が更年期障害に苦しむと言われています(Bresilda Sierra, et.al. 2005)。更年期障害は閉経の2年ほど前から始まり、何年も続きます。50% 近くは閉経から4年後でもホットフラッシュに苦しんでいます。10% 12年経ってもまだホットフラッシュに苦しんでいます。ちなみに、更年期障害が最も強く出るのは閉経後の1年間(生理が戻ってくるのか閉経したのかまだはっきりしない時期)だと言われています(Revisiting the Duration of Vasomotor Symptoms of Menopause: A Meta-Analysis. Mary Politi, Mark Schleinitz, Nananda Col 2008)
したがって、更年期障害が出る年齢になると、大多数の女性はDHEAを分泌する副腎の機能が多かれ少なかれ機能不全に陥っていると考えていいのではないかと思います。そうであれば、DHEAを補充しない理由はないということになります。更年期障害に対するDHEA補充の効果は確認されています(Effect of 12-month dehydroepiandrosterone replacement therapy on bone, vagina, and endometrium in postmenopausal women. Labrie F, et. al. 199; Long-term low-dose dehydroepiandrosterone oral supplementation in early and late postmenopausal women modulates endocrine parameters and synthesis of neuroactive steroids. Genazzani, et. al. 2003)。ただし、DHEAだけで十分というケースはまれなようです (Clinical review: DHEA replacement for postmenopausal women. Davis SR, Panjari M, Stanczyk FZ. 2011)DHEAはプロゲステロン同様、予防的に更年期障害が始まる前から使用することもできます。DHEAとプロゲステロンだけで十分でなければ、いつでも超低量の経皮エストラジオールを追加できます。最悪の選択は更年期障害を我慢することです。更年期障害を我慢すると、ストレスホルモンが慢性的に高くなって、骨の空洞化が進みます。ストレスホルモンが破壊するのは骨だけではありません。その影響は体のすべての組織に及びます(ストレスホルモンが骨を破壊する を参照)
要注意: どの時点でDHEA補充を始めるかに関係なく、プロゲステロン(本物の天然=人体同一プロゲステロン)を補充する必要があることを忘れないでください。できれば、DHEAやエストラジオールを始める前に、更年期障害が出る何年も前、生殖機能の衰えを示す変化が現れたとき(一般に35歳前後)から、エストロゲン優位という状態を避けるためにプロゲステロンを補充するのが理想です(ホルモンバランス:崩れの推移および安全なホルモン補充: 確かな証拠を参照)
更年期障害の治療という観点から見ると、DHEA単独補充に比べて経皮エストラジオール+経皮天然プロゲステロンが効果と安全性の両面ではるかに優れていますが、DHEAはエストラジオールと天然プロゲステロンではカバーできない領域をカバーします。加齢によるDHEA減少の健康に対する影響はまだよく理解されていませんが、コーチゾル対DHEAの比率が高いと健康によくないというデータが示唆するように、DHEAが十分ある方がないより健康にいいということは確かだと思います。さらに、DHEAから派生する男性ホルモンはエストラジオールもプロゲステロンもカバーできない領域です。特に、皮脂の分泌には男性ホルモンが重要なので、肌が乾燥しやすい人にとっては重要なホルモン補充だと思います。人によっては性欲の回復にも役立ちます。
要注意: DHEAの皮脂の分泌を活発にする作用は、DHEAの量が多すぎると、肌や髪の毛のトラブルの原因になります。それはDHEAの量が多すぎるかどうかの目安にもなります。髪の毛や頭の地肌が油っぽくなりすぎたり、吹き出物が出たりしたら量が多すぎるという印です。ほとんどの場合、経皮でも経口でも1510mgが効果的で安全な範囲だと思います。
One-year therapy with 10mg/day DHEA alone or in combination with HRT in postmenopausal women: Effects on hormonal milieu.(Nicola Pluchino, et. al. 2008) も同じ結論に達したようです。さらに、コーチゾルと違って、DHEAの長期使用は副腎皮質刺激ホルモンによる刺激を受けて副腎がDHEAを分泌する能力を向上するので、しばらくしたら、使用量を下げる必要があるかも知れません。
先にDHEAが脳にとって重要なホルモンであるらしいという話に触れましたが、脳は独自にDHEA/Sを生産するので、少量のDHEAの長期補充が健康な人の脳にどのように影響するかを評価するのは簡単ではありません。ともあれ、Neurobiological and neuropsychiatric effects of dehydroepiandrosterone (DHEA) and DHEA sulfate (DHEAS). (Maninger, et. al. 2009) によると、脳におけるDHEA/Sの生理作用は、神経の保護、神経突起の発育、神経の新生と維持と予定死、カテコールアミンの合成と分泌、抗酸化、抗炎症、抗糖質コルチコイド(コーチゾル)などに関わっているということです。「治療効果という観点から見ると、健康な人より精神神経疾患の見られる患者での効果が期待できる」とも言われています。
私の体験:初めてDHEA (130mg)を試したときは、エストロゲン補充を止めてしばらくして、更年期障害が出始めたとき、DHEAが役に立つかも知れないと聞いたのがきっかけでしたが、130mgを1ヶ月間使用しても何も効果を感じなかったので止めてしまいました。二度目は経皮エストラジオール+経皮プロゲステロンで更年期障害のほとんどは解消したけれども、朝早く目が覚めて疲れが抜け切れていなのに眠れないという問題が何とかならないものかと考えていたときでした。DHEAを加えることによって、ホルモン全体のバランスが良くなれば何か変化が起きるかもしれないと考え、何も変化がなくてもしばらく続けようと決心してDHEA (130mg)を始めたところ、3ヶ月ほどして髪の毛が油っぽくなりシャンプーの頻度を増やさなくてはならないところまでいき、頭の地肌にニキビまで出るようになりました。膣の周りの変化にも気が付きました。活力が少し戻った感じでした。睡眠の方は、目が覚めるのは同じですが、その後眠りに戻るのが容易になりました。そのメカニズムについては、コーチゾルと睡眠の関係を調べた研究(Association between time of awakening and diurnal cortisol secretory activity. Edwards S, Evans P, Hucklebridge F, Clow A. 2001) から推察して、DHEAの補充によって夜から早朝にかけてのコーチゾルが低下したためではないかと思っています。

使用量は始めのうちは130mgでしたが、以来、皮脂の分泌状態を見ながら、115mg110mg と徐々に減らしてきました。

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