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2014/11/25

骨とエストロゲン・パラドックス

エストロゲンは中高年の女性の更年期障害の治療だけでなく、骨量の低下をスローダウンするためにも処方されてきました (Ultralow-dose micronized 17beta-estradiol and bone density and bone metabolism in older women: a randomized controlled trial. Karen M Prestwood, et. al. 2003)。細胞レベルの研究では、エストロゲンは骨を吸収する破骨細胞を減少させることが示されてきました。
しかし、不思議なことに、骨量の低下はエストロゲンの低下が始まるかなり前から、エストロゲンが正常または正常な値より高くなり、卵巣のプロゲステロン分泌能力が低下し始めるころから始まります (このエストロゲン優位という現象のレビューには、「ホルモンバランス:崩れの推移」および Perimenopause: the complex endocrinology of the menopausal transition J C Prior 1998 を参照)。多くの女性にとって、骨量の低下は生殖能力の低下と共に40才前半からはっきりしてくる現象ですが、骨量低下が最も大きくなるのは、エストロゲンが低レベルで安定する閉経数年後以降ではなく、エストロゲンが安定しない移行期、更年期障害が最も顕著になる閉経前後の数年間です。
閉経前の数年間は卵巣の機能が弱くなり不安定になりますが、まだかなりの量のエストロゲン分泌能力が維持されています。時々、エストロゲンが通常より高くなることも知られています。更年期障害もこの時期に顕著になります (Revisiting the Duration of Vasomotor Symptoms of Menopause: A Meta-Analysis.Mary Politi, Mark Schleinitz, Nananda Col 2008)
ここで重要なことは、更年期障害の発現と重さは、エストロゲンの絶対量に対応していないということです。更年期に変動する各種のホルモンや更年期障害の重さと骨量の低下との相関関係を調べた研究では、骨量の低下はエストロゲンとの相関関係は低く、FSH、インヒビンA、インヒビンBなどとの相関関係の方が高いという結果になっています。つまり、相関関係だけを見ると、エストロゲンが骨量維持に貢献している度合いは小さいのです。更年期障害の重さに影響する要因を調べた研究でも、喫煙、ストレス、運動不足などエストロゲン以外の要因が関係していることが示されています。
さらに決定的なことは、拒食症の若い女性の骨量低下にエストロゲンは全く効果がないということです。
下の図1. に見られるように、閉経前後の数年間に骨量低下が加速されるという現象は疑う余地のない確立された現象です。


1. 緑色の点線が示す閉経前後の数年間(in transition)の骨量の低下が最も激しい。出典Change in bone mineral density as a function of age in women and men and association with the use of antiresorptive agents, Claudie Berger et. al. 2008
上の図からも明らかなように、骨量低下の加速は閉経以降ずっと続くわけではありません。更年期の移行期間とよばれる数年を経過すると骨量低下はスローダウンします。エストロゲンとの関係で言えば、エストロゲンが移行期間より低いレベルで落ち着く頃には骨量低下がスローダウンしているという逆説的な関係になっています。
  • V Seifert-Klauss, et. al. 20052006 の報告では、閉経直後の2年間に骨量が10.6%低下し、1年間で6%低下する例もあるということです。骨吸収を示すマーカー物質もこの時期に最も高くなることが示されています。
  • 日本で行われた研究 (Age, menopause, bone turnover markers and lumbar bone loss in healthy Japanese women., M Iki, E Kajita, Y Dohi, H Nishino, Y Kusaka, C Tsuchida, K Yamamoto, Y Ishii, 1996) では、閉経前後数年間の1年当たりの平均骨量低下が2.4% であるのに対し、更年期以前は0.01%、更年期を過ぎてからは0.85%の低下になっていると報告されています。
  • アメリカの研究 (Bone Mineral Density Changes during the Menopause Transition in a Multiethnic Cohort of Women. Joel S. Finkelstein, et. al. 2008) では、閉経前後の数年間の1年当たりの骨量低下は背骨で1.8~2.3%、腰骨で1.0~1.4%でした。閉経後5年間の骨量低下を合計すると、背骨で7~10%、腰骨で5~7%となり、骨折リスクという観点から見ると、骨折率が50~100%高くなる値となっています。
  • 骨代謝物質の研究でも、閉経前後の骨量低下の加速は明らかですが、更年期を過ぎるとその現象は消えています。骨量低下の加速は、不順とはいえ生理を誘発するに十分なだけのエストロゲンが分泌される閉経直前の数年間にも見られます。
閉経前後=更年期にはエストロゲンの絶対量以外の要因が骨代謝に影響していることは明らかです。それについては、後続のページで見ていきます。
骨シリーズ
  1. 骨の健康:更年期に何が起きるのか
  2. 骨を弱くする嘘つきビスホスホネート系薬剤
  3. エストロゲン・パラドックス  <<現在のページ
  4. 骨の維持とプロゲステロンの役割
  5. ストレスホルモンが骨を破壊する
  6. 更年期のエストロゲン補充が骨に役立つ理由
  7. お粗末な天然プロゲステロン研究の現状
  8. 骨質も骨量と同じだけ重要
  9. 骨の健康を維持するための基本


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